3.5 核酸

03 生体の高分子

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3.5 核酸

このセクションを読み終える頃には、あなたは次のことができるようになるでしょう。

  • 核酸の基本的な構造を説明し、二つの主要な核酸(DNAとRNA)を定義できる。
  • DNAの構造とその役割(遺伝情報の保持と伝達)について説明できる。
  • RNAの構造と、タンパク質合成などにおけるその多様な役割について説明できる。

核酸 (nucleic acid) は、生命の連続性にとって最も重要な高分子です。それは、細胞の遺伝的な設計図、つまりすべての生命活動の基本となる情報を保持し、細胞がどのように機能すべきかの指示を伝えています。核酸がなければ、親から子へと情報が受け継がれることも、細胞が正しく働くこともできません。

DNAとRNA

核酸には主に二つの種類があります。デオキシリボ核酸 (DNA; deoxyribonucleic acid)リボ核酸 (RNA; ribonucleic acid) です。

DNAは、単細胞の細菌から私たち人間のような多細胞の哺乳類に至るまで、ほとんどすべての生物において遺伝情報を担う物質です。真核生物(細胞核を持つ生物)では、DNAは主に核の中に存在し、さらにミトコンドリアや葉緑体といった細胞小器官の中にも少量存在します。一方、原核生物(細胞核を持たない生物)では、DNAは細胞質内の特定の領域(核様体と呼ばれます)にありますが、膜で囲まれてはいません。

細胞が持つ遺伝情報の全体をゲノム (genome) と呼び、ゲノムを研究する学問分野をゲノミクスと呼びます。真核細胞では、DNAはヒストン (histone) と呼ばれるタンパク質と複雑に結合し、クロマチン (chromatin) という構造を形成します。これが折り畳まれて染色体 (chromosome) という構造になります。一つの染色体には、数万もの遺伝子が含まれていることがあります。多くの遺伝子は、特定のタンパク質を作るための情報(設計図)を持っています。また、タンパク質ではなく、機能的なRNA分子を作るための情報を持つ遺伝子もあります。DNAは、これらの遺伝子のスイッチを「オン」にしたり「オフ」にしたりすることで、細胞のあらゆる活動をコントロールしているのです。

もう一方の核酸であるRNAは、主にタンパク質合成 (protein synthesis) のプロセスに関与しています。DNA分子は通常、核の中から出ることはありません。その代わりに、RNAを仲介役として、細胞の他の部分と情報をやり取りします。この仲介役となるのがメッセンジャーRNA (mRNA; messenger RNA) です。他にも、リボソームRNA (rRNA; ribosomal RNA)トランスファーRNA (tRNA; transfer RNA)マイクロRNA (miRNA) といった種類のRNAがあり、それぞれがタンパク質合成やその調節において重要な役割を果たしています。

DNAもRNAも、ヌクレオチド (nucleotide) と呼ばれるモノマー(構成単位)がたくさん繋がってできています。ヌクレオチドが鎖状に連なったものをポリヌクレオチド (polynucleotide) と呼び、これがDNAやRNAの基本的な形です。各ヌクレオチドは、三つの部分から構成されています:窒素塩基 (nitrogenous base)ペントース (pentose)(炭素原子を5つ持つ糖)、そしてリン酸基 (phosphate group) です(図3.31)。ヌクレオチドの中では、窒素塩基が糖分子に結合し、その糖分子に一つ以上のリン酸基が結合しています。

図3.31 ヌクレオチドは三つの要素で構成されています:窒素塩基、五炭糖(ペントース)、そして一つ以上のリン酸基です。ペントースの炭素原子には1’から5’までの番号が付けられています(このプライム記号「’」は、プライムなしで番号付けされる塩基の原子と区別するためです)。塩基はリボースの1’位に、リン酸基は5’位に結合します。ポリヌクレオチドが形成される際には、新しく入ってくるヌクレオチドの5’リン酸基が、成長中の鎖の末端にある3’ヒドロキシル基に結合します。ヌクレオチドには二種類のペントースが存在します:DNAに含まれるデオキシリボースと、RNAに含まれるリボースです。デオキシリボースはリボースと構造が似ていますが、2’位にOH基の代わりにH原子を持っています。塩基は二つのカテゴリーに分けられます:プリンとピリミジンです。プリンは二重環構造を持ち、ピリミジンは単環構造を持ちます。

ヌクレオチドの重要な構成要素である窒素塩基は、有機分子であり、その名の通り炭素と窒素を含んでいます。それらは塩基性を示す性質を持っています。なぜなら、アミノ基(-NH$_2$)を含んでおり、これが周囲から水素イオン(H$^+$)を受け取る可能性があるため、結果として環境の水素イオン濃度を下げ、より塩基性にするからです。DNAのヌクレオチドには、4種類の窒素塩基のいずれか一つが含まれています:アデニン (Adenine; A)グアニン (Guanine; G)シトシン (Cytosine; C)、そしてチミン (Thymine; T) です。

科学者は、アデニンとグアニンをプリン (purine) というグループに分類します。プリンの基本的な構造は、二つの炭素-窒素環が結合したものです。一方、シトシン、チミン、そしてRNAに含まれるウラシル (Uracil; U) は、ピリミジン (pyrimidine) というグループに分類され、こちらは単一の炭素-窒素環を基本構造としています(図3.31)。これらの基本的な炭素-窒素環には、それぞれ異なる官能基が結合しており、それが各塩基の個性を与えています。分子生物学の速記法では、これらの窒素塩基をそれぞれの頭文字、A, T, G, C, Uで表します。DNAに含まれるのはA, T, G, Cであり、RNAに含まれるのはA, U, G, Cです(RNAではチミン(T)の代わりにウラシル(U)が使われます)。

DNAに含まれるペントース糖はデオキシリボース (deoxyribose) であり、RNAに含まれる糖はリボース (ribose) です(図3.31)。これら二つの糖の主な違いは、糖の環を構成する炭素のうち、2番目の炭素(2’位と表記します)に結合している基です。リボースではヒドロキシル基(-OH)ですが、デオキシリボースでは水素原子(-H)になっています(「デオキシ」は酸素が一つ少ないことを意味します)。糖分子の炭素原子には、1’、2’、3’、4’、5’(それぞれ「ワンプライム」「ツープライム」…と読みます)という番号が付けられています。

ポリヌクレオチド鎖が形成される際、一つのヌクレオチドの糖の5’位の炭素に結合したリン酸基が、隣のヌクレオチドの糖の3’位の炭素に結合したヒドロキシル基と結合します。この結合を5′-3′ ホスホジエステル結合 (5′-3′ phosphodiester linkage) と呼びます。この結合の形成は、他の高分子におけるモノマー間の結合(例えばペプチド結合やグリコシド結合)で見られた単純な脱水反応とは少し異なり、実際には二つのリン酸基が取り除かれる過程を含みます。一本のポリヌクレオチド鎖は、何千ものホスホジエステル結合によって繋がっていることがあります。

DNA二重らせん構造

DNAは、特徴的な二重らせん (double helix) 構造をしています(図3.32)。これは、まるで二本の紐が互いに巻き付き合った、ねじれた梯子のような形です。この梯子の縦の柱(骨格)にあたる部分は、糖(デオキシリボース)とリン酸基が交互に連なってできており、らせんの外側に位置しています。一方、梯子の段にあたる部分は、窒素塩基が内側に向かって突き出してできています。そして、二本の鎖の塩基同士が、まるで階段の左右の段がペアになるように、水素結合 (hydrogen bond) によって互いに結びついています。

二重らせんの中では、隣り合う塩基対は約0.34ナノメートル(nm)の間隔で積み重なっています。そして、二本の鎖は互いに反対方向、つまり逆平行 (antiparallel) に走っています。これは、一方の鎖の端が5’末端(糖の5番目の炭素が末端に来る)であれば、もう一方の相補的な鎖の同じ側の端は3’末端(糖の3番目の炭素が末端に来る)になる、ということを意味します。この逆平行の向きは、DNAが複製される際や、他の核酸との相互作用において非常に重要です。

図3.32 天然のDNAは逆平行の二重らせんです。リン酸骨格(曲線で示す)は外側にあり、塩基は内側にあります。一方の鎖からの各塩基は、反対の鎖からの塩基と水素結合を介して相互作用します。(credit: Jerome Walker/Dennis Myts)

DNAの二重らせん構造では、塩基同士のペアリング(結合)には特定のルールがあります。プリン塩基は必ずピリミジン塩基とペアを形成します。具体的には、アデニン(A)は必ずチミン(T)とペアになり(A-Tペア)、グアニン(G)は必ずシトシン(C)とペアになります(G-Cペア)(図3.33参照)。これを塩基相補性の原則 (base complementary rule) と呼びます。この原則により、DNAの二本の鎖は互いに相補的 (complementary) な関係にあると言えます。もし一方の鎖の塩基配列が AATTGGCC であれば、もう一方の相補的な鎖の配列は必ず TTAACCGG となります。この相補性は、DNAが複製される際に極めて重要です。複製時には、二重らせんがほどけ、それぞれの鎖が鋳型(テンプレート)となって、相補的な新しい鎖が合成されます。その結果、元のDNAと同じ遺伝情報を持つ二つの娘DNA二重らせんが作られるのです。

図を見て考えよう 3.33

二本鎖DNA分子では、2本の鎖は互いに逆平行に走り、一方の鎖は5’から3’へ、もう一方は3’から5’へ走ります。リン酸骨格は外側に位置し、塩基は中央にあります。アデニンはチミンと水素結合(または塩基対)を形成し、グアニンはシトシンと塩基対を形成します。


もし突然変異が起こり、シトシンがアデニンに置き換わってしまったら、DNAの構造にどのような影響があると考えられますか? 少し想像してみてください

(解答は3.5節末に記載)

RNA

リボ核酸、すなわちRNAは、主にDNAからの指示に基づいてタンパク質を合成するプロセスに関わっています。RNAは通常、一本の鎖からなり、ホスホジエステル結合 (phosphodiester bond) によって連結されたリボヌクレオチド(リボースを持つヌクレオチド)で構成されています。RNA鎖中の各リボヌクレオチドは、ペントース糖であるリボース、4種類の窒素塩基(アデニン(A)、ウラシル(U)、グアニン(G)、シトシン(C))のうちの一つ、そしてリン酸基を含んでいます。DNAと異なり、RNAではチミン(T)の代わりにウラシル(U)が使われます。

RNAには主に4つの種類が存在し、それぞれ異なる役割を担っています:メッセンジャーRNA (mRNA; messenger RNA)リボソームRNA (rRNA; ribosomal RNA)トランスファーRNA (tRNA; transfer RNA)、そしてマイクロRNA (miRNA) です。

まずmRNAは、細胞のすべての活動をコントロールしているDNAからの「メッセージ」を運びます。細胞がある特定のタンパク質を合成する必要が生じると、そのタンパク質の設計図である遺伝子が「オン」になり、核内でmRNAが合成されます。このmRNAの塩基配列は、元となったDNAのコーディング配列(タンパク質のアミノ酸配列を指定する部分)と相補的です(ただし、DNAのTはRNAではUに置き換わります)。例えば、DNA鎖の配列が AATTGCGC であれば、それに対応する相補的なRNAの配列は UUAACGCG となります。合成されたmRNAは核から細胞質へと移動し、そこでリボソーム (ribosome) や他の細胞内装置と相互作用します(図3.34)。

図3.34 リボソームには2つの部分があります:大サブユニットと小サブユニットです。mRNAは2つのサブユニットの間に位置します。tRNA分子はmRNA上のコドンを認識し、相補的な塩基対形成によってそれに結合し、成長するペプチド鎖に正しいアミノ酸を付加します。

細胞質では、mRNAはコドン (codon) と呼ばれる3つの塩基のセットで読み取られます。それぞれのコドンが、特定の一つのアミノ酸を指定しています。このようにしてmRNAの情報が読み取られ、対応するアミノ酸が順番に繋げられて、目的のタンパク質が作られるのです。

rRNAは、タンパク質合成の現場であるリボソームの主要な構成要素です。rRNAは、mRNAがリボソームに正しく結合し、整列することを保証します。さらに、リボソームのrRNAの一部は酵素のような働き(ペプチジル転移酵素活性)を持ち、二つのアミノ酸の間にペプチド結合を形成する反応を触媒します。

tRNAは、4種類のRNAの中で最も小さいものの一つで、通常70~90ヌクレオチドの長さです。tRNAの重要な役割は、タンパク質合成の現場であるリボソームへ、正しいアミノ酸を運んでくることです。tRNAが持つ特定の塩基配列(アンチコドンと呼ばれます)が、mRNA上のコドンと相補的に結合(塩基対形成)することで、ポリペプチド鎖に正しいアミノ酸が挿入されることが保証されるのです。

miRNAは最も小さなRNA分子群で、特定のmRNAメッセージの発現を妨げることによって、遺伝子発現を調節する役割に関わっています。

表3.2は、DNAとRNAの主な特徴をまとめたものです。

表3.2 DNAとRNAの特徴

特徴DNARNA
機能遺伝情報を保持し、伝えるタンパク質合成とその調節に関わる
場所主に核内にとどまる核から細胞質へ移動する
構造二重らせん通常一本鎖(部分的に二次構造をとる)
デオキシリボースリボース
ピリミジンシトシン、チミンシトシン、ウラシル
プリンアデニン、グアニンアデニン、グアニン

RNAは一本鎖ですが、ほとんどの種類のRNAは、分子内で相補的な配列同士が塩基対を形成し、その機能に不可欠な、予測可能な特定の三次元構造をとることが知られています。

これまでに学んだように、生物における情報の流れは、基本的にDNAからRNAへ、そしてRNAからタンパク質へと進みます。DNAが持つ遺伝情報は、転写 (transcription) というプロセスを経てmRNAの構造(塩基配列)に写し取られ、次にそのmRNAの情報が翻訳 (translation) というプロセスを経てタンパク質の構造(アミノ酸配列)へと変換されます。この情報の流れは「セントラルドグマ (Central Dogma)」と呼ばれ、基本的にすべての生物に当てはまる生命の中心的な原理です。ただし、ウイルス感染など、一部の状況ではこの原則に例外が見られることもあります。

学びへのリンク

DNAについてさらに学ぶには、DNAのトピックに関するハワード・ヒューズ医学研究所 BioInteractiveアニメーションを探求してください。


3.5 節末の演習解答

図を見て考えよう 3.33 解答

シトシン (C) は通常グアニン (G) と3つの水素結合で塩基対を形成します。アデニン (A) は通常チミン (T) と2つの水素結合で塩基対を形成します。もしCがAに置換されると、相補鎖のGとは正しく塩基対を形成できません(AとGはどちらもプリンであり、プリン同士のペアリングはらせん構造を歪ませます)。このミスマッチは、DNAの局所的な構造を不安定にする可能性があります。これにより、DNAが複製されたり、遺伝情報が転写されたりする際にエラーが生じやすくなるかもしれません。また、細胞内にはDNAの損傷を修復する仕組みがあるため、この異常な塩基対が修復機構によって認識され、修正が試みられる可能性もあります。


3.5 Glossary

  • Adenine (A): アデニン
  • Antiparallel: 逆平行
  • Base complementary rule: 塩基相補性の原則
  • Central Dogma: セントラルドグマ
  • Chromatin: クロマチン
  • Chromosome: 染色体
  • Codon: コドン
  • Complementary: 相補的な
  • Cytosine (C): シトシン
  • Deoxyribonucleic acid (DNA): デオキシリボ核酸
  • Deoxyribose: デオキシリボース
  • Double helix: 二重らせん
  • Genome: ゲノム
  • Guanine (G): グアニン
  • Histone: ヒストン
  • Hydrogen bond: 水素結合
  • Messenger RNA (mRNA): メッセンジャーRNA
  • MicroRNA (miRNA): マイクロRNA
  • Nitrogenous base: 窒素塩基
  • Nucleic acid: 核酸
  • Nucleotide: ヌクレオチド
  • Pentose: ペントース(五炭糖)
  • Phosphate group: リン酸基
  • Phosphodiester linkage (5′-3′): ホスホジエステル結合 (5′-3′)
  • Polynucleotide: ポリヌクレオチド
  • Protein synthesis: タンパク質合成
  • Purine: プリン
  • Pyrimidine: ピリミジン
  • Ribonucleic acid (RNA): リボ核酸
  • Ribosomal RNA (rRNA): リボソームRNA
  • Ribosome: リボソーム
  • Ribose: リボース
  • Thymine (T): チミン
  • Transcription: 転写
  • Transfer RNA (tRNA): トランスファーRNA
  • Translation: 翻訳
  • Uracil (U): ウラシル

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