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10.4 情動

10 感情と動機づけ

表情と感情の認識

文化は、人々が感情を表示する方法に影響を与えることがあります。文化的表示規則cultural display ruleとは、感情の表現が、どんな種類なら、あるいはどんな頻度なら許されるかを規定する、文化特有の基準の一つです (Malatesta & Haviland, 1982)。したがって、文化的背景が違えば、感情の文化的表示規則が大きく異なる可能性があります。例えば、米国の人は、恐怖、怒り、嫌悪などのネガティブな感情を、一人の時と他人がいる時の両方で表現するのに対し、日本の人は一人の時にしか表現しないという研究結果があります(Matsumoto, 1990)。さらに、社会的な結束を重視する文化圏の人は、どう反応するのが最も適切であるかを考えるために、情動反応を抑える傾向があります(Matsumoto, Yoo, & Nakagawa, 2008)。

情動には、他の文化的特徴が関係している可能性もあります。例えば、情動処理には男女差があるかもしれません。情動表現の性差についてははっきりしていませんが、情動の制御については男女で違いがあるという証拠がいくつかあります(McRae, Ochsner, Mauss, Gabrieli, & Gross, 2008)。

Paul Ekmanポール・エクマン (1972)は、ニューギニアの男性を調査しました。その男性は石器を使った文字を持たない文化の中で生活していましたが、その文化は孤立しており、それまで外部の人間を見たことがありませんでした。Ekmanはこの男性に、次のような場合にどのような表情をするかを尋ねました。(1)友人が訪ねてきたとき、(2)子供が亡くなったばかりのとき、(3)喧嘩をしようとしているとき、(4)臭い豚の死骸を踏んだとき。Ekmanはニューギニアから帰国した後、40年以上にわたって顔の表情を研究しました。そして、情動の表示規則が異なるにもかかわらず、私たちが表情から感情を認識したり、そうした表情を浮かべる能力は普遍的であるようだとわかりました。実際、先天的に目が見えない人は、他の人の感情表現を観察する機会がないにもかかわらず、同じような表情を作り出します。このことは、感情表現に関わる顔の筋肉の活動パターンが普遍的であることを示唆しているように思えます。この考えは、19世紀後半にCharles Darwinチャールズ・ダーウィンが著した『The Expression of Emotions in Man and Animals』(1872年、邦訳は『人及び動物の表情について』)でも示唆されていました。実際に、7つの普遍的な感情が、それぞれ異なる表情と関連していることを示す証拠があります。これには、幸福、驚き、悲しみ、恐怖、嫌悪、軽蔑、そして怒りが含まれます(図10.24)(Ekman & Keltner, 1997)。

図10.24 7つの普遍的な感情の表情を示す。

もちろん、感情は顔の表情だけで表現されるわけではありません。私たちは、声のトーンやさまざまな行動、ボディランゲージなどを用いて、感情の状態に関する情報を伝えます。ボディランゲージbody languageとは、体の位置や動きで感情を表現することです。研究によると、私たちは意識していなくても、ボディランゲージで伝えられる感情的な情報にかなり敏感であることがわかっています(de Gelder, 2006; Tamietto et al., 2009)。

動画で学習

政治的な討論という緊迫した状況でのボディランゲージについてのCNNの短いビデオを見て、さらに学びましょう。

Decoding debate body language

情動表現と情動制御

自閉症スペクトラム障害autism spectrum disorder(ASD)は,反復的な行動や,コミュニケーションや社会性の問題を特徴とする一連の神経発達障害です。自閉症スペクトラムの子どもたちは,他者の情動状態を認識することが難しく,これは,さまざまな非言語的な情動表現(すなわち、顔の表情など)を互いに区別できないことに起因する可能性があることが研究で示されています(Hobson, 1986)。さらに、自閉症の患者は、声のトーンや顔の表情を作ることで感情を表現することも困難であることを示唆する証拠もあります(Macdonald et al., 1989)。感情の認識や表現の困難さは、自閉症の特徴である社会的交流やコミュニケーションの障害の一因となる可能性があり、したがって、こうした困難に対処するための様々な治療的アプローチが模索されています。様々な教育カリキュラム,認知行動療法,および薬物療法によって,自閉症患者の情動に関する情報の処理を助けることが期待されています(Bauminger, 2002; Golan & Baron-Cohen, 2006; Guastella et al., 2010)

情動制御とは,人々が情動体験や表現を修正することによって状況や経験に対応する方法を説明するものです。潜在的な情動制御方略は個人の中で起こるものであり、顕在的な方略は他者や行動(アドバイスを求めたり、アルコールを摂取したりすることなど)に関わるものです。AldaoとDixon(2014)は、顕在的な情動制御方略と精神病理の関係を研究しました。彼らは、218名の学部生が潜在的な方略と顕在的な方略の使用をどのように報告しているか、また選択した精神障害に関連する症状をどのように報告しているかを調査し、顕在的な情動制御方略は潜在的方略よりも精神病理の予測因子として優れていることを明らかにしました。また、別の研究では、プレゲーミング(パーティなどの社会的イベントの前に大量に飲酒すること)と2つの情動制御方略との関係を調べ、これらがアルコール関連問題にどのように寄与するかを調べたところ、関係はあるものの、その関係は複雑であることが示唆されました(Pederson, 2016)。適応的および不適応的な情動制御のパターンをよりよく理解するためには、これらの分野でのさらなる研究が必要だといえます(Aldao & Dixon-Gordon, 2014)。

図10.20 (credit a: modification of work by Kerry Ceszyk; credit b: modification of work by Kerry Ceszyk)

図10.21 (credit “snake”: modification of work by “tableatny”/Flickr; credit “face”: modification of work by Cory Zanker)

図10.24 (credit: modification of work by Cory Zanker)

Access free at https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/10-4-emotion

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