学習目標
- Minnesota Multiphasic Personality Inventory(ミネソタ多面人格目録)について説明できる。
- 性格評価に用いられる一般的な投影法検査を認識し、説明することができる
ロベルト、ミハイル、ナットの3人は大学時代の友人で、みんな警察官になりたいと思っています。ロベルトは無口の恥ずかしがり屋で、自分に自信がなく、いつも人の後をついて回ります。優しい人だが、やる気がありません。ミハイルは派手で騒がしく、リーダー的存在です。一生懸命働いていますが、衝動的で週末は飲み過ぎてしまいます。ナットは思慮深く、人望も厚い、信頼に足る人物ですが、時々、素早い決断ができないこともあります。この3人の中で、誰が一番の警察官になるでしょうか?良い警察官になるには、どのような資質や性格が必要なのでしょうか?逆に、悪い警察官や危険な警察官になるのはどんな人でしょうか?
警察官の仕事は非常にストレスが多いため、法執行機関は適切な人材を採用したいと考えています。性格検査は、雇用と職業訓練のための応募者をスクリーニングするためにしばしば使用されます。また、刑事事件や親権争い、心理障害を評価するためにも使用されています。ここでは、さまざまな種類の性格検査の中でも、特に有名なものを紹介します。
自己報告式の検査
自己報告式の検査は、性格を評価するための客観的なテストの一種です。通常、多肢選択式の項目や、1(強くそう思わない)から5(強くそう思う)までの範囲を表す番号付きの尺度を使用します。これらの尺度は、開発者であるRensis Likert (Likert,1932)にちなんで、しばしばリッカート尺度と呼ばれます(図11.16)。自己報告式の検査は、一般的に実施するのが容易で、高い費用対効果があります。しかし、検査の受ける人は、意図的または意図せずに、より社会的に望ましかったり、誇張したり、偏ったり、あるいは誤解を招くような方法で回答する傾向があると考えられます。例えば、仕事に応募する人は、自分自身をポジティブに見せようとするでしょうし、おそらく実際よりも優れた候補者としてアピールするでしょう。
もっとも広く使用されている性格検査の1つがミネソタ多面人格目録(MMPI)です。これは、1943年に発表された「はい」か「いいえ」で答える問題を504問収録したもので、1989年には567問を収録したMMPI-2に改訂されました。オリジナルのMMPIは、ミネソタ州の農家と精神科患者を中心とした、小規模で限られたサンプルに基づいていましたが、改訂版では、標準化を進めるために、より代表的な全米規模のサンプルに基づいています。MMPI-2は、1~2時間で終了します。その後、回答を採点し、心気症、抑うつ、ヒステリー、精神病質的偏倚(社会的逸脱)、男性性・女性性、パラノイア、精神衰弱(強迫性)、統合失調症、軽躁病、社会的内向性の10の尺度からなる臨床尺度に基づいたプロフィールが作成されます。また、アルコール依存症の危険因子を把握する尺度もあります。2008年には、より高度な方法でテストが改訂され、「MMPI-2-RF」が発表されました。このバージョンでは、テストの所要時間が約半分に短縮され、質問数も338問となりました(図11.17)。新テストのこうした利点にもかかわらず、MMPI-2の方がより確立されており、今でもより広く使用されています。一般的に、テストはコンピュータで実施されます。MMPIはもともと、心理的な障害の臨床診断を支援するために開発されたものですが、現在では、法執行機関などの職業的な選考や、大学、キャリア、結婚のカウンセリングにも使用されています(Ben-Porath & Tellegen, 2008)。
この検査には、臨床尺度のほかに、妥当性尺度と信頼性尺度があります。(信頼性と妥当性の概念は、心理学の研究の章で学んだことを思い出してください)。妥当性尺度の1つであるLie尺度(L尺度、Lieは「うそ」の意)は15項目で構成されており、回答者が「良いことを装っている」(心理的問題を過少に報告して健康的に見せている)かどうかを確認するために使用されます。例えば、「一度も嘘をついたことがない」など、現実離れした肯定的な項目に「はい」と答えた人は、実際よりも良い状態に見せようとしている可能性があります。
信頼性尺度は、長期間にわたる検査の一貫性をテストするもので、MMPI-2-RFを今日受けて、5年後にもう一度受けた場合、2つのスコアが似たようになることを保証するものです。Beutler, Nussbaum, and Meredith (1988)は、新しく採用された警察官にMMPIを実施し、2年後に同じ警察官に実施しました。入社2年後の警察官の回答は、アルコール依存、身体症状(原因不明の漠然とした体調不良)、そして不安に対する脆弱性の増加を示していました。さらに2年後(勤務開始から4年後)にもテストを行ったところ、アルコール関連障害のリスクが高いことが示唆されました。
投影法検査
性格を評価するもう一つの方法は、投影法による検査です。この検査は、Freudが提唱した防衛機制の一つである「投影」を利用して、無意識のプロセスを評価する方法です。この種の検査では、一連の曖昧なカードが被検者に示され、被検者は自分の感情、衝動、欲求をカードに投影して、物語を語ったり、画像を解釈したり、文章を完成させたりするよう促されます。多くの投影法検査は、標準化された手順を経ており(例えば、Exner, 2002)、通常とは異なる考えを持っているかどうか、不安が強いかどうか、不安定になる可能性があるかどうかを確認するために使用することができます。投影法検査の例としては、ロールシャッハ・テスト、主題統覚検査(TAT)、、TEMAS (Tell-Me-A-Story)などがあります。投影法検査は、意図的な歪曲の影響を受けにくく、「良い」答えが何であるかが明らかでないため、良くみせようとすることが困難です。投影法検査は、自己報告式の検査よりも時間がかかります。評価者がエクスナー法を用いてロールシャッハテストを採点した場合、そのテストは有効で信頼性のある測定値とみなされます。しかし、他の投影法によるテストの有効性は疑問視されており、その結果はしばしば裁判には使えません(Goldstein, n.d.)。
ロールシャッハ・(インクブロット・)テストは、1921年にスイスの心理学者Hermann Rorschachによって開発されました。ロールシャッハ・テストでは,被検者は、心理学者から対称的なインクの染みがついたカードを提示されます。それぞれのカードが提示されると、心理学者は被検者に 「これは何でしょうか?」と尋ねます。被検者が見るものには、無意識の感情や葛藤が現れます(Piotrowski, 1987; Weiner, 2003)。ロールシャッハは,エクスナー法で標準化されており,うつ病,精神病,不安症の測定に有効です。
2つ目の投影法による検査は、1930年代にアメリカの心理学者Henry Murrayと精神分析医Christiana Morganによって作成されたTAT(主題統覚検査)です。TATを受ける人は、8~12枚のあいまいな絵を見せられ、それぞれの絵についての物語について聞かれます(図11.18)。物語は、その人の社会的世界を洞察し、願望や、恐怖、興味、目標を明らかにします。物語の形式をとることは、人が無意識の個人的な詳細を打ち明けることへの抵抗感を軽減するのに役立ちます(Cramer, 2004)。TATは、心理障害を評価するために臨床現場で使用されてきましたが、最近では、被検者が自分自身をよりよく理解し、自己成長を達成するのを支援するために、カウンセリングの現場でも使用されています。臨床家の間では、テスト実施の標準化はほとんど行われておらず、テストの有効性と信頼性は控えめか低い傾向にあります(Aronow, Weiss, & Rezinkoff, 2001; Lilienfeld, Wood, & Garb, 2000)。このような欠点があるにもかかわらず、TATは最も広く使用されている投影法検査の1つです。
3つ目の投影法検査は、1950年にJulian Rotterによって開発されたロッター式文章完成法 (RISB)です(この章の前半で取り上げた彼の統制の所在の理論を思い出してください)。この検査には、学校用、大学用、成人用の3種類があります。この検査では、40の不完全な文章をできるだけ早く完成させることが求められます(図11.19)。この検査は、言葉の連想ゲームに似ており、他のタイプの投影法と同様に、回答には願望、恐怖、葛藤などが含まれていると考えられます。RISBは、大学生の適応障害のスクリーニングやキャリアカウンセリングに用いられています(Holaday, Smith, & Sherry, 2010; Rotter & Rafferty 1950)。
何十年もの間、これらの伝統的な投影法検査は、異文化間の性格評価に使用されてきました。しかし、検査のバイアスによってその有用性が制限されてしまうことが明らかになりました(Hoy-Watkins & Jenkins-Moore, 2008)。単一の文化や人種のデータに基づいた性格検査を用いて、大きく異なる民族・文化グループのメンバーの性格やライフスタイルを評価することは困難なのです(Hoy-Watkins & Jenkins-Moore, 2008)。例えば,アフリカ系アメリカ人の受験者にTATを使用したところ,話の長さが短く,文化的同一性が低いという結果になることが多くありました(Duzant, 2005)。そのため、人種や言語、順応度などの要素を考慮した別の性格評価を開発することが不可欠でした (Hoy-Watkins & Jenkins-Moore, 2008)。この必要に応えるために、Robert Williamsは、アフリカ系アメリカ人の日常生活の経験を反映するように設計された、文化的に特異な投影法によるテストを初めて開発しました(Hoy-Watkins & Jenkins-Moore, 2008)。その最新版がContemporized-Themes Concerning Blacks Test (C-TCB) (Williams, 1972)です。C-TCBには、アフリカ系アメリカ人のライフスタイルを示す20枚のカラー画像が含まれています。C-TCBをアフリカ系アメリカ人のTATと比較したところ、C-TCBを使用した方が、ストーリーの長さが長くなり、ポジティブな感情の度合いが高くなり、C-TCBとの同一性が強くなることがわかりました(Hoy, 1997; Hoy-Watkins & Jenkins-Moore, 2008)。
TEMAS Multicultural Thematic Apperception Testは、マイノリティグループ、特にヒスパニック系の若者に文化的に関連するようにデザインされたもう一つの検査法です。TEMASは「Tell Me a Story」の略であり、スペイン語のtemas(テーマ)をもじったもので、マイノリティ文化に関連したイメージやストーリーテリングの手がかりを用いています(Constantino, 1982)。