学習目標
- 社会心理学を定義する
- 行動に対する状況的影響と気質的影響を説明する
- 基本的な帰属の誤りを説明する
- 行為者-観察者バイアスを説明する
- 自己奉仕バイアスを説明する
- 公正世界仮説を説明する
社会心理学では、人がお互いにどのような影響を与えるかを調べ、「状況の力」に注目します。アメリカ心理学会(American Psychological Association,n.d.)では、社会心理学者は、「性格と社会的相互作用のあらゆる側面に関心を持ち、対人関係や集団関係が人間の行動に及ぼす影響を探求する 」とされています。本章を通して、他の個人や集団の存在が、人の行動や思考、感情にどのような影響を与えるかを検証していきます。基本的に、人はその場の社会的状況に合わせて行動を変えます。新しい状況に置かれたり、どのように振る舞ったらよいかわからないとき、人は他の人からヒントを得るのです。
社会心理学の分野では、個人内と個人間、両方のレベルのトピックを研究します。個人内のトピック(個人に関わるもの)には、感情や態度、自己、社会的認知(自分や他人について考える方法)などがあります。個人間のトピック(二人やグループに関するもの)には、援助行動(図12.2)、攻撃性、偏見と差別、魅力と親密な関係、グループプロセスと集団間の関係などがあります。
社会心理学者は、人々が状況をどのように概念化し、解釈するか、そしてその解釈が人々の思考、感情、行動にどのように影響を与えるかに注目します(Ross & Nisbett, 1991)。したがって、社会心理学では、社会的文脈の中での個人と、状況変数がどのように相互作用して行動に影響を与えるかを研究します。本章では、自己呈示、認知的不協和、態度変容といった個人内プロセスと、同調と服従、攻撃性と利他性、そして最後には愛と魅力といった個人間プロセスについて説明します。
行動に対する状況的・性格的影響
私たちの行動は、状況(文化的影響、社会的役割、傍観者の存在など)と個人(性格特性など)の両方の産物です。心理学の下位分野では、他よりもある1つの影響や行動に焦点を当てる傾向があります。状況主義は、私たちの行動や行為は、身近な環境や周囲の状況によって決定されるという考え方です。これに対して、傾性主義は、私たちの行動は内的要因によって決定されるという考え方です(Heider, 1958)。内的要因とは、人の属性のことで、性格特性や気質などが含まれます。社会心理学者は状況主義の視点に立つ傾向があり、性格心理学者は傾性主義の視点を推し進めてきました。しかし、現代の社会心理学のアプローチでは、状況と個人の両方を考慮に入れて人間の行動を研究しています(Fiske, Gilbert, & Lindzey, 2010)。実際、社会-性格心理学という分野は、人間の行動に影響を与える内的要因と状況要因の複雑な相互作用を研究するために生まれたものです(Mischel, 1977; Richard, Bond, & Stokes-Zoota, 2003)。
基本的な帰属の誤り
米国では、人間の行動を説明する際に、傾性的なアプローチを好む文化が主流です。これはなぜだと思いますか?私たちは、自分の行動は自分でコントロールできるので、行動の変化は性格や習慣、気質などの内面的なものに起因するはずだ、と考える傾向があります。社会心理学者によると、人は他人の行動を説明する際に、内的要因を強調しすぎる傾向があるといいます。ある人の行動というのはその人自身の「特性」である、と思い込み、人の行動に対する状況の影響力を過小評価する傾向があるのです。他人の行動が状況変数によるものである場合、つまりその人の「状態」のせいである場合を認識できない傾向があります。この誤った仮定は、基本的な帰属の誤りと呼ばれています(Ross, 1977; Riggio & Garcia, 2009)。理解を深めるために、次のようなシナリオを想像してみましょう。
ジェイミーが仕事から帰宅して玄関を開けると、配偶者のモーガンが嬉しそうに挨拶をし、今日の様子を尋ねてきます。モーガンの親切な挨拶に応える代わりに、ジェイミーは「ほっといてくれ!」と叫びました。なぜジェイミーは叫んだのでしょうか?
基本的な帰属の誤りを犯している人は、ジェイミーの行動をどのように説明するでしょう?最も一般的な回答は、ジェイミーが意地悪で、怒りっぽくて、愛想のない人(=特性)だというものです。これは、内的または傾性的な説明です。しかし、ジェイミーが会社の組織再編のために仕事を解雇されたばかりだとしたらどうでしょう。ジェイミーの行動に対するあなたの説明は変わりますか?あなたの説明は、ジェイミーが解雇されたことに不満と失望を感じ、それゆえに機嫌が悪かったというものになるかもしれません。これは、ジェイミーの行動に対する外的または状況的な説明になります。
基本的な帰属の誤りは非常に強力で、人々は行動に及ぼす明らかな状況的影響を見落としがちです。その典型的な例が、クイズマスター研究として知られる一連の実験で示されました(Ross, Amabile, & Steinmetz, 1977)。学生の参加者は、クイズゲームの質問者(クイズマスター)と挑戦者の役に無作為に割り当てられました。質問者は、自分が答えを知っている難問を作成し、それを挑戦者に提示しました。挑戦者は10回中4回しか正解できませんでした(図12.3)。タスクの終了後、質問者と挑戦者に、平均的な学生と比較して、自分の一般知識を評価してもらいました。質問者は自分の一般知識を挑戦者よりも高く評価しませんでしたが、挑戦者は質問者の知性を自分よりも高く評価しました。2つ目の研究では、そうしたクイズゲームのやりとりを観察していた人も、質問者の方が挑戦者よりも一般的な知識を持っていると評価しました。パフォーマンスに影響を与えるのは、明らかに状況です。質問者がクイズを書いたのだから、当然質問者が有利のはずです。挑戦者も観察者も、パフォーマンスに対して内的帰属をしていました。彼らは、質問者は挑戦者よりも知的に違いないと結論づけたのです。
また、似たものとして、ハロー効果があります。ハロー効果は、ある個人の全体的な印象が、その人の性格に対する評価を左右する傾向のことです。例えば、身体的に魅力的な人は、魅力的でない人よりも善良な人である可能性が高いと思い込んでしまうことがあります。また、社交的でフレンドリーな人は、そうでない人に比べて道徳的に優れていると考えるのも、ハロー効果の一例です。
以上のように、基本的な帰属の誤りは、他人の行動を説明する際に大きな影響力を持つと考えられます。しかし、一部の研究者は、基本的な帰属の誤りは、よく言われているほど強力ではないかもしれないと示唆しています。実際、173件以上の研究をまとめた最近のレビューによると、基本的な帰属の誤りの影響力を決定するには、いくつかの要因(例えば、登場人物の特異性が高いことや、仮説的な出来事がどの程度説明されているかなど)が関与していることが示唆されています(Malle, 2006)。