基本的な帰属の誤りは普遍的な現象なのか?
基本的な帰属の誤りの例は、皆さんの生活の中にもあるかもしれません。しかし、あらゆる文化圏の人々が基本的な帰属の誤りを犯すのでしょうか?
研究によると、そうではないようです。個人主義文化、つまり個人の成功や自律性を重視する文化の人は、基本的な帰属の誤りを犯す傾向が最も強いと言われています。アメリカ、カナダ、イギリスなどの西欧諸国に多い個人主義文化では、個人を重視する傾向があります。そのため、その人の気質が、その人の行動の主な説明になると考えられているのです。一方で、集団主義文化、つまり、家族や友人、地域社会など、他者との共同体的な関係を重視する文化の人たち(図12.4)は、基本的な帰属の誤りを犯す可能性が低いとされています(Markus & Kitayama, 1991; Triandis, 2001)。
なぜこうした傾向があるのだと思いますか?東アジアやラテンアメリカ、アフリカに多い集団主義文化では、個人よりも集団を重視します(Nisbett, Peng, Choi, & Norenzayan, 2001)。このように他者に注目することで、行動に対する状況的・文化的な影響を考慮した広い視野を持つことができ、他者の行動の原因をよりニュアンス豊かに説明することができるようになります。表12.1は、個人主義文化と集団主義文化の比較をまとめたものです。
個人主義文化 | 集団主義文化 |
---|---|
達成志向 | 関係性志向 |
自立性重視 | グループの和を重視 |
傾性的観点 | 状況的観点 |
独立 | 相互依存 |
分析的な考え方 | 包括的な考え方 |
Masuda and Nisbett(2001) は、集団主義文化と個人主義文化の違いによって、人々が視覚刺激(例:水族館のシーン)を見るときに注意する情報の種類が大きく異なることを示しました。日本の参加者は、最初に見たときと同じ文脈の中で提示された物体を認識する確率が非常に高かったのに対し、アメリカ人の場合、物体を思い出すときの状況を変えても、そのような影響はありませんでした。他の研究者も同様の違いを文化間で示しています。例えば、Zhang, Fung, Stanley, Isaacowitz, and Zhang(2014)は、中国人とアメリカ人の参加者の間で、ホリスティック(包括的)な思考が発達する方法に違いがあることを示しました。また、Ramesh and Gelfand(2010)は、インド人のサンプルでは、離職率はその人と働く「組織」との適合性により関連しているが、アメリカ人のサンプルでは、その人と特定の「仕事」との適合性の方が離職率を予測することを示しました。
行為者-観察者バイアス
先ほどの例に戻ってみると、ジェイミーは解雇されたが、観察者はそれを知りません。そのため、ナイーブな観察者は、ジェイミーの敵対的な行動を、真の状況的な原因ではなく、ジェイミーの気質によるものだと考えがちです。なぜ、私たちは他人の行動に対する状況の影響を過小評価するのでしょうか?一つの理由は、他人の行動を状況的に説明するために必要な情報をすべて持っていないことが多いからです。私たちが持つことができる情報は、観察可能なものに限られます。このように情報が不足しているため、私たちはその行動が気質的なもの、つまり内的要因によるものだと考える傾向があるのです。しかし、自分自身の行動を説明するとなると、私たちはより多くの情報を得ることができます。もし、あなたが学校や仕事から怒って帰ってきて、愛犬や大切な人を怒鳴りつけたとしたら、あなたはどのように説明しますか?おそらく「疲れていた」「体調が悪かった」「静かな時間が必要だった」など、状況に応じた説明をするでしょう。行為者-観察者バイアスとは、他人の行動は内的要因に帰属させ(基本的な帰属の誤り)、自分の行動は状況的な力に帰属させてしまう現象です(Jones & Nisbett, 1971; Nisbett, Caputo, Legant, & Marecek, 1973; Choi & Nisbett, 1998)。行動の行為者からみれば、自分の行動を説明するために利用できる情報は多くあります。しかし、観察者だと、利用できる情報が少ないため、傾制主義的な視点に陥りがちになるのです。
行為者-観察者バイアスに関するある研究では、男性参加者が自分のガールフレンドを好きな理由を調査しました(Nisbett et al.1973)。自分のガールフレンドを好きになった理由を聞かれた参加者は、ガールフレンドの内的な気質(例えば、彼女の愉快な性格)に注目しました。そして、彼らの説明には、彼ら自身の内的要因はほとんど含まれていませんでした(「交遊が欲しい」など)。一方、男友達が自分の彼女を好きな理由を推測する場合、参加者は傾性的な説明と外的な説明を同じように行っていました。このことは、行為者は自分の行動について、内面的な説明は少なく、状況的な説明を多くする傾向があるという考えを支持するものです。一方、観察者は、友人の行動に対して、傾性的な説明を多くする傾向があります(図12.5)。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスを理解するには、結果の原因についての信念である帰属について、より深く掘り下げる必要があります。帰属に関するあるモデルでは、統制の所在(内的か外的か)、安定性(安定か不安定か)、制御可能性(制御可能か不可能か)という3つの主要な次元が提案されています。ここでいう安定性とは、ある結果をもたらす状況がどの程度変化しうるかを意味します。状況が変化しそうにない場合は、安定していると考えられる。一方、制御可能性とは、ある結果に結びつく状況をどの程度制御できるかということです。明らかに、私たちがコントロールする力を持っているものは、制御可能と表示されます(Weiner, 1979)。
結果を受けて、自分をひいき目で見るような帰属を、自己奉仕バイアスといいます(成功の場合は内的帰属、失敗の場合は外的帰属とするなど)。例えば、試験で良い結果を出したとき、状況的な帰属(「試験が簡単だった」)ではなく、自分の行動に対する傾性的な帰属(「私は頭が良い」)をした方が得策といえます。
自己奉仕バイアスとは、自分の成功を傾性的(内的)特性によるものと説明し、自分の失敗を状況的(外的)要因によるものと説明する傾向のことです。これも文化によって異なります。このバイアスは、自尊心を守るためのものです。もし人々が自分の行動をいつも状況的な要因で説明していたら、自分の功績を認めたり、何かを達成して気分よく過ごしたりすることができなくなってしまうことは想像に難くありません。
例えば、お気に入りのスポーツチームの勝利をどのように説明するかということを考えてみましょう。研究によると、私たちはチームの勝利に対して、内的で安定した、制御可能な帰属をしていることがわかっています(図12.6)(Grove, Hanrahan, & McInman, 1991)。例えば、チームには才能があり(内的)、一貫して努力しており(安定的)、効果的な戦略を用いている(制御可能)と自分に言い聞かせることがあげられます。一方、応援しているチームが負けると、私たちは外的で、不安定で、制御不能な帰属をする傾向があります。例えば、「相手チームには経験豊富な選手がいる」、「審判が不公平だった」(外的)、「相手チームはホームで戦った」(不安定)、「寒さがチームのパフォーマンスに影響した」(制御不能)などです。
公正世界仮説
欧米人が行動に対して傾性的な説明をする傾向があることの結果として、犠牲者への非難があります(Jost & Major, 2001)。人が不幸な経験をすると、他人は自分の運命に何らかの責任があると考える傾向があります。米国でよく見られるイデオロギー(世界観)に「公正世界仮説」があります。公正世界仮説とは、人々は自分にふさわしい結果を得ることができる、という信念です(Lerner & Miller, 1978)。世界は公平な場所であるという信念を維持するために、人々は、善い人はプラスの結果を経験し、悪い人はマイナスの結果を経験すると考える傾向があります(Jost, Banaji, & Nosek, 2004; Jost & Major, 2001)。世界を公平な場所と考えることができると、人々は、世界が予測可能であり、自分の人生の結果をある程度コントロールできると感じることができます(Jost et al., 2004; Jost & Major, 2001)。例えば、ポジティブな結果を経験したければ、出世するために一生懸命働けばいいのです。
公正世界仮説のマイナスの結果には何があげられると思いますか?その一つは、人々が貧しい人たちの窮状を責める傾向があることです。人々が貧困に苦しむ理由として、どのような説明がよくなされるでしょうか。「貧乏人は怠け者で働きたくないだけだ」とか「貧乏人は政府に頼って生きていきたいだけだ」などという批判を聞いたことはありませんか?これらの傾性的な説明は、基本的な帰属の誤りの明確な例です。貧困の原因を貧困層の人々のせいにすることは、高い失業率、不況、教育機会の不足、貧困の家族的連鎖など、貧困層に影響を与える状況的要因を無視しているのです(図12.7)。ほかにも、公正世界信念を持つ人は、失業者やAIDS患者に対して否定的な態度をとるという研究結果もあります(Sutton & Douglas, 2005)。アメリカやその他の国において、性的暴行の被害者は、自分が虐待を受けたことで非難されていることに気づくかもしれません。Domestic Violence Ended(DOVE)などの被害者擁護団体は、被害者ではなく、性暴力の加害者に非難が向くよう、被害者を支援するために法廷に出席します。
図12.2 (credit: Sgt. Derec Pierson, U.S. Army)
図12.3 (credit: Steve Jurvetson)
図12.4 (credit a: modification of work by Arian Zwegers; credit b: modification of work by “conbon33″/Flickr; credit c: modification of work by Anja Disseldorp)
図12.6 (credit: “TheAHL”/Flickr)
図12.7 (credit: Adrian Miles)
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