Amazonの「聴く読書」Audible 無料体験

14.1 ストレスとは何か?

14 ストレス・生活習慣・健康

良いストレス?

ストレスというとネガティブなイメージがありますが、時にはそれがメリットになることもあります。たとえば、試験勉強をする、定期的に医者にかかる、運動をする、仕事で最大限の力を発揮する、といったように、ストレスは私たちに最善の利益をもたらすような行動をさせることがあります。実際、Selye (1974) は、すべてのストレスが有害であるとは限らないことを指摘しています。彼は、ストレスは時として、人生の質を向上させる前向きな原動力となり得ると主張しました。このようなストレスを、Selye は快ストレスeustress (ギリシャ語の eu = 「良い」) と呼び、ポジティブな感情、最適な健康状態、パフォーマンスに関連する良い種類のストレスであるとしました。

適度なストレスは、困難な状況において有益となることがあります。例えば、スポーツ選手は試合前のストレスによってやる気と活力を取り戻し、学生は大きな試験の前に同様の有益なストレスを経験することがあります。実際、適度なストレスは、教材の即時再生(覚えた直後に思い出す)と遅延再生(時間が経ってから思い出す)の両方を向上させることが研究で示されています。科学的な文章を暗記した研究では、軽度のストレッサーにさらされた直後の参加者においても、ストレッサーにさらされた1 日後の参加者においても、その文章の記憶が向上したことが示されています (Hupbach & Fieman, 2012)。

ストレスのレベルが上がると、パフォーマンスは予想可能な形で変化します。図14.4に示すように、ストレスが増加すると、パフォーマンスと全般的な健康状態 (快ストレス) が変化します。ストレスレベルが最適なレベル (曲線の最高点) に達すると、パフォーマンスはピークに達します。このストレスレベルにある人は、いわゆる絶好調の状態です。つまり、十分なエネルギーと集中力を感じ、最小限の労力で最大の効率を発揮して仕事ができます。しかし、ストレスがこの最適なレベルを超えると、もはやプラスの力ではなく、過剰で衰弱した状態、つまりSelyeが言うところの不快ストレスdistress(ラテン語のdis = 「悪い」)になります。このレベルのストレスに達した人は、燃え尽きたように感じ、疲労し、疲れ果て、パフォーマンスが低下し始めます。ストレスが過剰な状態が続くと、健康状態も損なわれ始める可能性があります (Everly & Lating, 2002)。不快ストレスの好例は、重度の試験不安です。学生がテストに対して強いストレスを感じている場合、否定的な感情と身体的な症状が相まって、集中力が低下し、テストの成績に悪影響を及ぼすことがあります。

図 14.4 ストレスレベルが低い状態から中程度になるにつれて、パフォーマンス(快ストレス)も高くなる。最適なレベル(曲線のピーク)で、パフォーマンスはピークに達する。ストレスが最適なレベルを超えると、ストレスは不快ストレスの領域に入り、そこで過剰になり衰弱して、パフォーマンスが低下します (Everly & Lating, 2002)。

ストレスの蔓延

ストレスはどこにでもあり、図14.5に示すように、ここ数年、増加傾向にあります。私たち一人ひとりがストレスと付き合っていますが、ストレスとの関わりが強い人もいるでしょう。例えば、吹雪の中を車で移動しなければならないとき、大事な面接の朝に寝坊したとき、次の給料日前にお金がなくなったとき、大事な試験を受ける前の準備が十分でないときなどに、ストレスは抱えきれないほどの重荷のように感じられます。

図 14.5 米国の成人の約半数が、過去 5 年間にストレスレベルが上昇したと回答している(Neelakantan, 2013)。

ストレスは、生理的な反応 (心拍数の上昇、頭痛、胃腸障害など)、認知的な反応 (集中力や判断力の低下など)、行動的な反応 (飲酒、喫煙、ストレス原因の解消に向けた行動など) など、さまざまな反応を引き起こす経験です。ストレスは時にポジティブな効果をもたらしますが、健康に悪影響を及ぼすこともあり、さまざまな身体的疾患および疾病の、発症と進行の原因となります (Cohen & Herbert, 1996)。

ストレスやその他の心理的要因が健康にどのような影響を及ぼすかを科学的に研究することは、健康心理学health psychologyの領域に属します。心理学の下位分野である健康心理学は、健康、病気、および病気になったときの人々の対応に心理学的影響が及ぼす重要性を理解することを目的としています (Taylor, 1999)。

健康心理学は、行動やライフスタイルの要因が病気や疾患の発症に果たす役割への注目が高まっていた1970年代に学問分野として誕生しました。(Straub, 2007)。健康心理学者は、ストレスと病気の関係を研究するだけでなく、人々がなぜ特定のライフスタイルを選択するのか (たとえば、健康に悪影響を及ぼす可能性を知りながら喫煙や不健康な食事をする) といった問題についても調査しています。また、健康心理学者は、不健康な行動を改めることを目的とした介入策の有効性を設計し、調査します。

健康心理学者のより基本的な仕事の1つは、心理的、または行動的要因に基づいて、どの集団の人々が特に健康上の悪影響を受けるリスクがあるかを特定することです。たとえば、人口統計学的なグループ間のストレスレベルの差と、そのレベルが時間とともにどのように変化するかを測定することは、病気や疾患のリスクが高い人々を特定するのに役立ちます。

図14.6は、1983年、2006年、2009年に実施された、異なる人口構成の数千人による簡単なストレスアンケートの結果を示しています(Cohen & Janicki-Deverts, 2012)。3つの調査すべてにおいて、男性よりも女性の方がストレスが高いことが示されました。また、無職の人は、学歴や収入の低い人と同様に、3つの調査すべてにおいて高いストレスレベルを報告しており、退職者は、最も低いストレスレベルを報告していました。しかし、2006年から2009年にかけては、男性、45-64歳のヒスパニック系住民、大卒者、正規雇用者の間でストレスレベルが最も高くなりました。この結果は、2008-2009年の景気後退をめぐる懸念(例えば、失業するおそれや実際の失業、退職金の大幅な損失)が、現役時代の残り時間が限られている大卒の有職男性にとって特にストレスになった可能性があると解釈することができます。

Graphs a through f show mean stress scores in 1983, 2006, and 2009, and how they have been impacted by different factors. Graph a shows the relationship between mean stress score and sex. The mean stress score for men steadily increased from 12 in 1983 to a little over 14 in 2006 to a little over 15 in 2009. The mean stress score for women increased rapidly from a little under 13 in 1983 to 16 in 2006 and remained the same in 2009. The graph indicates that the mean stress score for women is higher than the mean stress score for men overall. Graph b shows the relationship between mean stress score and age. The mean stress scores for people under 25 years old increased from a little over 14 in 1983 to a little over 18 in 2006, and then decreased to 17 in 2009. The mean stress scores for people 25 to 34 years old increased from a little under 14 in 1983 to 18 in 2006, then decreased to a little over 16 in 2009. The mean stress scores for people 35–44 years old increased from 13 in 1983 to a little under 17 in 2006, then decreased to a little over 16 in 2009. The mean stress scores for people 45–54 years old from a little under 13 in 1983 to 15 in 2006, then increased to a little under 17 in 2009. The mean stress scores for people 55–64 years old steadily increased from 12 in 1983 to a little over 13 in 2006 to a little over 14 in 2009. The mean stress scores for people 65 years old or older decreased from 12 in 1983 to a little under 11 in 2006, then slightly increased to 11 in 2009.  Graph c shows the relationship between mean stress score and race. The mean stress scores for White people steadily increased from a little under 13 in 1983 to 15 in 2006 to a little over 15 in 2009. The mean stress scores for Black people increased from a little over 15 in 1983 to a little over 16 in 2006, then slightly decreased to a little over 15 in 2009. The mean stress scores for Hispanic people steadily increased from 14 in 1983 to a little under 16 in 2006 to 17 in 2009. The mean stress score for people classified as “Other” increased from 14 in 1983 to a little over 17 in 2006 where it remained. Graph d shows the relationship between mean stress scores and education. The mean stress scores for those with less than a high school education steadily increased from a little over 14 in 1983 to a little over 17 in 2006 to 19 in 2009. The mean stress scores for those with a high school education increased from 12 in 1983 to a little over 16 in 2006 and remained the same in 2009. The mean stress scores for those with some college education increased from 12 in 1983 to a little over 15 in 2006, then slightly increased to a little under 16 in 2009. The mean stress scores for those with a bachelor’s degree steadily increased from 12 in 1983 to a little over 13 in 2006 to 15 in 2009. The mean stress scores for those with advanced degrees also steadily increased, from a little over 11 in 1983 to 13 in 2006 to a little under 15 in 2009. Graph e shows the relationship between mean stress scores and employment status. The mean stress scores for those with full time employment status steadily increased from a little over 12 in 1983 to 15 in 2006 to 16 in 2009. The mean stress scores for those with part time employment status increased from 14 in 1983 to 16 in 2006, then decreased to 15 in 2009.The mean stress scores for those who were unemployed rapidly increased from a little over 16 in 1983 to 20 in 2006, then decreased back to a little over 16 in 2009. The mean stress scores for those who were retired remained lower than the other groups, remaining at a little under 12 in 1983 and 2006, then slightly increasing to a little over 12 in 2009. Graph f shows the relationship between the mean stress score and income in U.S. dollars. The mean stress scores for those with an income of $25,000 or lower steadily increased from a little over 15 in 1983 to 17 in 2006 to a little under 18 in 2009. The mean stress scores for those with an income of  $25,001 to $35,000 steadily increased from 14 in 1983 to 16 in 2006 to a little under 17 in 2009. The mean stress scores for those with an income of $35,001–$50,000 steadily increased from a little under 13 in 1983 to a little over 15 in 2006 to a little over 16 in 2009. The mean stress scores for those with an income of $50,001–$75,000 increased rapidly from 12 in 1983 to a little under 15 in 2006, then slightly increased to a little over 15 in 2009. The mean stress scores for those with an income of $75,001 or more steadily increased from 12 in 1983 to a little under 13 in 2006 to a little over 14 in 2009.
図 14.6 上のグラフは Cohen & Janicki-Deverts (2012) から引用したもので、1983 年、2006 年、2009 年の各年齢層におけるストレスレベルの平均値を示したものである。性別、年齢、人種、教育レベル、雇用形態、収入などのカテゴリー別に見ると、この四半世紀の間にストレスレベルは概して著しく上昇していることがわかる。
タイトルとURLをコピーしました