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14.4 ストレスの制御

14 ストレス・生活習慣・健康

コントロールとストレス

出来事を予測し、意思決定を行い、結果に影響を与えたい、つまり、自分の人生をコントロールしたいという欲求と能力は、人間の行動の基本的な考え方です(Everly & Lating, 2002)。 Albert Bandura (1997)は、「人間のストレスの強さとそれがどれだけ慢性的であるかは、自分の人生の要求に対するコントロール可能性の認知によって大きく支配される」(p.262)と述べています。

彼の発言にあるように、潜在的なストレッサーに対する私たちの反応は、そのようなものに対して自分がどれだけコントロールできていると感じているかによって大きく左右されます。 コントロール可能性の認知perceived control(訳の参考)は、結果に対して影響力を及ぼし、結果を形成する個人的な能力についての信念であり、私たちの健康と幸福に大きな影響を与えます(Infurna & Gerstorf, 2014)。

広範な研究により、個人のコントロール可能性の認知は、身体的・精神的健康の向上や心理的幸福の増大など、さまざまな好ましい結果と関連することが実証されています(Diehl & Hay, 2010)。また、個人のコントロールの感覚が大きいと、日常生活におけるストレッサーへの反応性が低くなるとも言われています。たとえば、ある調査では、ある時点でコントロール可能性の認知のレベルが高いと、後に、対人関係のストレッサーに対する感情的・身体的反応性が低くなることがわかりました (Neupert, Almeida, & Charles, 2007)。さらに、34人の高齢の夫を亡くした女性を対象とした日誌研究では、コントロール可能性の認知が大きいと感じた日に、ストレスと不安のレベルが有意に減少することがわかりました (Ong, Bergeman, & Bisconti, 2005)。

学習性無力感

私たちが自分の人生で起こる出来事をコントロールできるという感覚を持てないとき、特に、それらの出来事が脅威、有害、または不快であるとき、その心理的影響は深刻なものになる可能性があります。

この概念をよく表しているのが、心理学者のMartin Seligmanマーティン・セリグマンが1960年代に行った一連の古典的な実験です(Seligman & Maier, 1967)。この実験は、犬を電気ショックから逃れることができない実験室に入れるものでした。その後、この犬たちに仕切りを飛び越えて電気ショックから逃れる機会を与えたところ、ほとんどの犬は逃れようともせず、実験者が与えた電気ショックをただ受動的に受け入れているように見えました。これに対して、以前にショックから逃れることが許されていた犬は、仕切りを飛び越えて痛みから逃れようとする傾向が見られました(Fig. 14.22)。

セリグマンは、後のショックから逃れようとしなかった犬たちは学習性無力感learned helplessnessを示していると考えました。犬たちは、自分が受けている刺激に対して何もすることができないという信念を獲得していたのです。また、このような消極性や自発性の欠如は、人間のうつ病に見られるものと類似していると考えました。

そこでSeligmanは、学習性無力感が人間のうつ病の重要な原因である可能性を推測しました。人生における否定的な出来事を経験し、自分にはどうすることもできないと思った人間は、無力になる可能性があります。その結果、その状況を変えようとすることをあきらめ、ある者は抑うつ状態になり、結果をコントロールできる将来の状況においても、自発性の欠如を示すかもしれません(Seligman, Maier, & Geer, 1968)。

Seligmanが決して提案しなかった応用例として、学習性無力感は後に、2001年の世界貿易センタービルへの攻撃後、米軍と情報機関の職員による囚人の拷問に用いられることになりました。この拷問プログラムを考案した心理学者、James E. Mitchellジェームズ・E・ミッチェルBruce Jessonブルース・ジェソンは、制御不能な苦悩にさらされた被拘束者は、やがて受動的で従順になり、尋問者に情報を明かす可能性が高くなると理論付けました。しかし、このプログラムが有意義な結果をもたらしたという証拠はほとんどありません。現在では、このプログラムは非倫理的で不当なものであると広く見なされています。この例は、調査研究とその応用の倫理を一貫して検討する必要性を強調しています(Konnikova, 2015)。

Seligmanらは、後にうつ病の学習性無力感モデルを再定式化しました(Abramson, Seligman, & Teasdale, 1978)。その再定式化の中で、彼らは学習性無力感の感覚を助長する帰属(すなわち、何かが起こった理由に対する心的説明)を強調しました。例えば、同僚が職場に遅刻してきたとき、その同僚の遅刻の原因についてあなたが考えることが帰属です(例えば、交通量が多い、遅くまで寝ていた、時間を守ることを気にしない、など)。

Seligmanの研究の改良版は、否定的な人生の出来事に対してなされる帰属がうつ病に寄与するというものです。中間試験の成績が悪かった学生の例で考えてみましょう。このモデルは、この学生がこの結果に対して3種類の帰属を行うことを示唆しています:内的vs.外的(結果は彼自身の個人的な不十分さにあると信じるか、環境要因によって引き起こされたと信じるか)、安定vs.不安定(原因は変更可能であると信じるか、永久であると信じるか)、普遍的vs.特異的(結果はほとんどすべてにおいて不十分であることの兆候であると考えるか、この領域だけ不十分だったと考えるか)です。

この学生は、成績不振の原因として、内的(「私は頭が悪いだけだ」)、安定的(「頭が悪いという事実を変えることはできない」)、全体的(「これは私がいかに何でもダメかということの別の例だ」)を挙げていると仮定します。この再構成された理論では、学生はこのストレスフルな出来事に対するコントロールの欠如を認識し、その結果、特にうつ病を発症しやすくなると予測されます。実際、悪い結果に対して内的、安定的、全体的な帰属をする傾向がある人は、否定的な人生経験に直面したときにうつ病の症状を発症する傾向があることが研究で証明されています (Peterson & Seligman, 1984)。幸いなことに、帰属の習慣は練習によって変えることができます。健全な帰属習慣の訓練により、うつ病になりにくくなることが示されているのです(Konnikova, 2015)。

Seligmanの学習性無力感モデルは、大うつ病性障害の発症を説明する有力な理論的説明として、長年の間に浮上してきました。精神疾患を学習する際には、このモデルの最新版である「絶望感理論」について学ぶことになるでしょう。

コントロール可能性の認知のレベルが高い人は、自分の健康はコントロール可能であると考え、それによって、自分の健康をよりよく管理し、健康に役立つ行動をとる可能性が高くなります (Bandura, 2004)。当然のことながら、コントロール可能性の認知が大きいほど、身体機能の低下(Infurna, Gerstorf, Ram, Schupp, & Wagner, 2011)、心臓発作(Rosengren et al, 2004)、心疾患の発症(Stürmer, Hasselbach, & Amelang, 2006)と心疾患による死亡(Surtees et al, 2010)など、身体の健康問題のリスクが低いことに関連しています。さらに、英国の公務員を対象とした縦断的研究によると、地位の低い仕事(事務員や事務補助員など)で、仕事に対する支配の度合いが小さい人は、地位の高い仕事や仕事に対する支配がかなり強い人に比べて、心臓病を発症する確率がかなり高いことが分かっています(Marmot, Bosma, Hemingway, & Stansfeld,1997)。

コントロール可能性の認知と健康との関連は、社会階層と健康との間に頻繁に観察される関係を説明する可能性があります (Kraus, Piff, Mendoza-Denton, Rheinschmidt, & Keltner, 2012)。一般的に、裕福な人ほど健康状態が良好であることが研究でわかっています。その理由の1つは、人生のストレス要因に対する自分の反応は自分でコントロールできる、と考える傾向があるためです(Johnson & Krueger, 2006)。

社会階級の高い人は、コントロールできると思い込んでいるためか、自分が特定の結果に対して持っている影響力の程度を過大評価する傾向があるようです。例えば、社会階級の高い人は、社会階級の低い人よりも、自分の一票が選挙結果に大きな影響を与えると考える傾向があり、このことが、より豊かなコミュニティで投票率が高いことを説明する可能性があります(Krosnick, 1990)。また、他の研究では、コントロール可能性の認知の感覚によって、健康状態の悪化、うつ病、生活満足度の低下(社会的地位の低い人に起こりやすい)から、裕福でない人々を守ることができるとされています(Lachman & Weaver、1998)。

これらの研究や他の多くの研究から得られた知見を総合すると、コントロール可能性の認知と対処能力は、私たちが人生を通じて遭遇するストレッサーを管理し、対処する上で重要であることが明確に示唆されます。

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