観察研究のもう一つの問題は、観察者バイアスです。一般的に、観察者として行動する人は、研究プロジェクトに密接に関わっており、自分の研究目標や期待に合うように、無意識のうちに観察結果を歪めてしまうことがあります。このようなバイアスを防ぐために、研究者は、記録する行動の種類と、その行動をどう分類するかについて、明確な基準を設ける必要があります。また、研究者は、異なる観察者による観察の一貫性を評価する信頼性の指標である評価者間信頼性を調べるために、同じ出来事を複数の観察者が観察した結果を比較することがよくあります。
アンケート調査
心理学者は、データ収集の手段としてアンケート調査を行うことがあります。アンケート調査は、調査対象者に回答してもらう質問のリストであり、紙と鉛筆を用いて行うもの、電子的に実施されるもの、あるいは口頭で行われるものがあります(図2.9)。一般的に、調査自体は短時間で完了し、調査の実施が容易であることから、多くの人からデータを収集することができます。
アンケート調査は、他の調査方法に比べて、より多くのサンプルからデータを収集することができます。サンプルとは、研究者が関心を持っている個人の全体的なグループである母集団から選ばれた個人の小集団です。
研究者は、サンプルを調査し、その結果を母集団に一般化しようとします。一般的に、研究者はこのプロセスを、収集したデータから様々な代表値を計算することから始めます。これらは、典型的な回答が全体的にどのようなものかをまとめたものです。代表値には、最頻値、中央値、平均値の3つがあります。最頻値は、最も頻繁に発生する回答で、中央値は、データの集合の中央に位置するもの、平均値は、すべてのデータの点の算術平均です。平均値は、後述するような追加分析を行う際に最も有用であると考えられますが、外れ値の影響を非常に受けやすいため、代表値がデータの集合について何を物語っているかを評価する際には、その影響を考慮する必要があります。
事例研究と比較して、アンケートには長所と短所の両方があります。アンケートを使うことで、より多くの人から情報を集めることができます。より多くのサンプルは、母集団の実際の多様性をよりよく反映することができ、その結果、より良い一般化が可能になります。したがって、サンプルの数が十分に多く、多様性に富んでいれば、調査で収集したデータは、事例研究で収集した情報よりも確実に、より大きな集団に一般化できると考えられます。しかし、調査対象者の数が多いため、事例研究のように一人一人の情報を深く収集することはできません。
アンケート調査のもう一つの弱点は、この章の前半で触れたことです。人は必ずしも正確な回答をするとは限りません。嘘をついたり、記憶違いをしたり、自分を良く見せるために質問に答えたりすることがあります。例えば、実際よりも少ない量のお酒を飲んだと報告する人もいるでしょう。
アンケート調査を利用することで、さまざまな疑問に答えることができます。例えば、Jenkins, Ruppel, Kizer, Yehl, and Griffin (2012) は、2001年9月11日のテロ事件後に米国のアラブ系アメリカ人コミュニティが受けた反発について調査しました。彼らは、同時多発テロの発生から10年近くが経過しても、アラブ系アメリカ人に対する否定的な態度はどの程度残っているのか調べようとしました。ある研究では、140人の研究参加者が10の質問からなる調査票に記入しました。その中には、参加者がさまざまな民族の人々に対する明らかな偏見的態度を持っているかどうかを直接尋ねる質問も含まれていました。また、この調査では、参加者がさまざまな場面で特定の民族の人と交流する可能性についても間接的に質問しました(「アラブ系アメリカ人の人に自分を紹介する可能性はどのくらいあると思いますか」など)。調査の結果、参加者はどの民族に対しても偏見的な態度を報告したがらないことが示唆されました。しかし、アラブ系アメリカ人との交流に関する質問に対する回答パターンには、他の民族と比べて有意な差が見られ、アラブ系アメリカ人との交流に対する意欲が低いことがわかりました。このことは、参加者がアラブ系アメリカ人に対する微妙な偏見を持っていることを示唆しています(Jenkins et al.2012)。