前庭感覚、固有受容感覚、運動感覚
前庭感覚は、私たちが体のバランスや姿勢を維持する能力に貢献しています。図5.24が示すように、このシステムの主要な感覚器官(卵形嚢、球形嚢、三半規管)は、内耳の蝸牛の隣に位置しています。前庭器官は液体で満たされており、聴覚系に見られるものと同様に、頭の動きや重力に反応する有毛細胞があります。この有毛細胞が刺激を受けると、前庭神経を介して脳に信号が送られます。通常の環境では前庭系の感覚情報を意識することはありませんが、内耳の病気に起因する乗り物酔いやめまいを経験すると、その重要性が明らかになります(Khan & Chang, 2013)。
前庭系は、バランスを維持するだけでなく、運動をコントロールするのに重要な情報を収集し、体の位置の変化を補うために体のさまざまな部分を動かす反射機能を持っています。そのため、前庭系が提供する情報を利用して、固有受容感覚(体の位置の認識)と運動感覚(空間における体の動きの認識)が相互に作用します。
また、これらの感覚系は、筋肉、関節、皮膚、腱などの伸縮や緊張に反応する受容体からも情報を収集します(Lackner & DiZio, 2005; Proske, 2006; Proske & Gandevia, 2012)。触覚と運動感覚の情報は、脊柱を経由して脳に伝えられます。小脳に加えて、いくつかの皮質領域が、固有受容系と運動感覚系の感覚器官から情報を受け取り、情報を送ります。
書籍紹介
妻を帽子とまちがえた男
妻を帽子とまちがえてかぶろうとする者、青春時代で記憶が止まった者、そして固有受容感覚を失った者—ふしぎな症例を扱った24篇のエッセイから、人間性について再考させる1冊。
「感じることさえできればねえ」
こう言って泣くのだ。
「でも、感じることがどんなことなのかも忘れてしまいました…… 私だってもとは正常だった、そうでしょう。みんなと同じように動く ことができたんでしょう?」
「もちろんです」
「もちろんだなんて言ってもだめ、私には信じられないんです。証明してください」
オリヴァー サックス. 妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ文庫NF) (pp.91-92). 株式会社 早川書房. Kindle 版.(太線は筆者による)
おいしさの錯覚
「おいしさ」を決めるのは味だけではない。ポテトチップスの研究でイグノーベル賞を受賞した著者による、「ガストロフィジックス」の解説本。
図5.21 credit a: modification of work by Jonas Töle; credit b: scale-bar data from Matt Russell
Openstax,”Psychology 2e 5.5 The Other Senses”.https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/5-5-the-other-senses