パブロフの犬
心理学の勉強を始めたばかりの人でも、Ivan Pavlovと彼の有名な犬の名前を聞いたことがあるかもしれません。
Pavlov(1849-1936)は、ロシアの科学者で、犬を使った研究を行い、古典的条件付けの実験でよく知られています(図6.3)。古典的条件付けとは、前節で簡単に説明したように、人間が刺激を関連付けて学習し、その結果、出来事を予測するプロセスのことです。
Pavlovが学習の仕組みについての結論に達したのは、まったくの偶然でした。 Pavlovは心理学者ではなく、生理学者だったのです。生理学者は、分子レベルから、細胞、器官系、生物全体に至るまで、生物の生命現象を研究します。 Pavlovが興味を持ったのは、消化器系でした(Hunt, 2007)。 Pavlovは、犬を使った研究で、さまざまな食物に反応して分泌される唾液の量を測定しました。やがて Pavlov(1927)は、犬が食べ物の味だけでなく、食べ物を見たとき、空のエサ入れを見たとき、さらには実験助手の足音でも唾液を分泌するようになったことを観察したのです。口の中の食べ物に対する唾液分泌は反射的に行われるので、学習は必要ありませんが、空の器や足音の場合は自然には唾液を出さないはずです。
このような異常な反応に興味を持った Pavlovは、犬の「心的分泌」と呼ばれる現象が何によるものかを考えました(Pavlov, 1927)。 Pavlovは、この現象を客観的に調べるために、どのような刺激を与えると犬が唾液を分泌するのか、注意深く制御された一連の実験を計画しました。そして、ベルの音や、光、足に触れるなど、明らかに食べ物とは関係のない刺激に反応して唾液を分泌するように犬を訓練することができたのです。 Pavlovは実験を通して、生物には環境に対する2種類の反応、すなわち①無条件(学習していない)反応(反射)と、②条件(学習した)反応があることに気づきました。
Pavlovの実験では、犬は肉粉を提示されるたびに唾液を出しました。このときの肉粉は無条件刺激(UCS)であり、生物の反射的な反応を引き起こす刺激です。犬の唾液分泌は無条件反応(UCR)であり、刺激に対する自然な(学習されていない)反応です。条件付けの前に、犬たちの刺激と反応を次のように考えてみましょう。
肉粉(UCS) → 唾液分泌(UCR)
古典的条件付けでは、無条件刺激の直前に中性刺激を提示します。 Pavlovは、(鐘を鳴らすような)音を鳴らしてから、犬に肉粉を与えます(図6.4)。音色は中性刺激(NS)であり、自然には反応を起こさない刺激です。条件付けの前には、犬は音を聞いただけでは唾液を出しませんでしたが、これは音が犬にとって何の関連性もないからです。
音色(NS) + 肉粉(UCS) → 唾液分泌(UCR)
Pavlovが音と肉粉をペアにして何度も繰り返すと、それまで中性だった刺激(音)も犬の唾液分泌を引き起こすようになりました。これにより、中性刺激が条件刺激(CS)となり、無条件刺激と一組にして繰り返し提示ことで反応を引き起こす刺激となります。やがて犬は、それまで助手の足音で唾液を出していたように、音だけで唾液を出すようになりました。条件刺激によって引き起こされる行動を条件反応(CR)といいます。 Pavlovの犬の場合は、音(CS)と餌をもらうことを関連付けて学習し、餌を期待して唾液を出すようになりました(CR)。
音(CS) → 唾液(CR)