自然概念と人工概念
心理学では、概念は自然的なものと人工的なものの2つに分けられます。自然概念とは、あなたの経験を通して「自然に」作られるもので、直接的な経験と間接的な経験のどちらからでも開発することができます。例えば、あなたがバーモント州のエセックス・ジャンクションに住んでいるとすれば、あなたはおそらく「雪」を直接体験したことが多いでしょう。空から降ってくる雪を見たり、車のフロントガラスをかろうじて覆う程度の軽い雪を見たり、”これならスキーができるぞ “と思って18インチ(約46㎝)のふわふわした白い雪をかき出したこともあるでしょう。親友に雪玉を投げつけたり、町で一番急な坂道をそりで滑り降りたりしたことも。要するに、あなたは雪を知っているのです。見た目も、匂いも、味も、感触も、すべて知っています。しかし、もしあなたがずっとカリブ海のセントビンセント島に住んでいたとしたら、実際に雪を見たことがないかもしれませんし、ましてや味わったり、嗅いだり、触ったりしたこともないかもしれません。雪が降っている写真を見たり、雪を舞台にした映画を見たりして、雪を間接的に知ることになります。どちらにしても、雪を直接観察したり、雪にまつわる体験をしたり、映画や本などの間接的な知識によって理解を深めることができるので、雪は自然概念です(図7.3)。
一方、人工概念は、特定の特性によって定義された概念のことです。人工概念の例としては、正方形や三角形などの幾何学的な形状のさまざまな特性が挙げられます。三角形は必ず3つの角と3つの辺を持ち、正方形は常に4つの等しい辺と4つの直角を持っています。面積の式(縦×横)のような数式は、常に同じ特性を持つ特定のセットによって定義された人工概念です。人工概念は、互いを積み重ねることで、そのテーマの理解を深めることができます。例えば、「正方形の面積」という概念(およびそれを求める公式)を学ぶ前に、「正方形」とは何かを理解しておく必要があります。正方形の面積」という概念を理解すれば、その理解に基づいて他の幾何学的図形の面積について理解することができるわけです。あるアイデアを定義するために人工概念を使用することは、他者とのコミュニケーションや複雑な思考を行う上で非常に重要です。Goldstone and Kersten (2003)によれば、概念は積み木のようなものであり、無数の組み合わせによって複雑な思考を生み出すことができます。
スキーマ
スキーマは、関連する概念が集まってできた構成概念のことです(Bartlett, 1932)。スキーマにはさまざまな種類がありますが、共通しているのは、スキーマは脳の働きをより効率的にするための情報整理法だということです。スキーマが起動すると、脳は観察されている人や物について即座に仮定します。
スキーマにはいくつかの種類があります。役割スキーマは、特定の役割を担っている個人がどのように行動するかについて仮定するものです(Callero, 1994)。例えば、消防士だと名乗る人に出会ったとします。このとき、あなたの脳は自動的に「消防士スキーマ」を活性化させ、「この人は勇敢で、無私無欲で、コミュニティを大切にする人だ」と仮定し始めます。その人のことを知らないのに、知らず知らずのうちに判断してしまっているのです。また、スキーマは、あなたが周囲から受け取る情報のギャップを埋めるのにも役立ちます。スキーマによって効率的な情報処理が可能になる一方で、スキーマが正確であるかどうかに関わらず、スキーマには問題がある場合もあります。ひょっとすると、この消防士は勇敢ではなく、子ども図書館員になるための勉強をしながら生活費を稼ぐために消防士として働いているだけなのかもしれません。
イベントスキーマは、認知的スクリプトとも呼ばれ、お決まりの手順のように感じられる一連の行動のことです。エレベーターに乗るときのことを考えてみましょう(図7.4)。まず、ドアが開いて、降りる人がエレベーターから出るのを待ちます。そして、エレベーターに乗り込み、ドアに向かって振り返り、押すべきボタンを探します。エレベーターの後ろ側を見ることはないはずです。混雑したエレベーターの中で、正面を向くことができないと、違和感を覚えると思います。興味深いことに、イベントスキーマは文化や国によって大きく異なる場合があります。例えば、アメリカでは握手で挨拶するのが一般的ですが、チベットでは舌を出して挨拶しますし、ベリーズでは拳をぶつけます(Cairns Regional Council, n.d.)。(日本ではお辞儀をしますね。)
イベントスキーマは自動的に行われるため、変更するのが難しいことがあります。仕事や学校から車で帰宅するときのことを想像してみてください。このイベントスキーマでは、車に乗り込み、ドアを閉め、シートベルトを締めてからキーをイグニッションに差し込みます。このスクリプトは、1日に2〜3回行うかもしれません。車で帰宅するとき、携帯電話の着信音が聞こえます。通常、電話の着信音が聞こえたときに発生するイベントスキーマは、電話を探して応答したり、最新のテキストメッセージに返信したりすることです。そのため、何も考えずに携帯電話に手を伸ばします。携帯電話はポケットの中にあるかもしれませんし、バッグの中にあるかもしれませんし、車の助手席にあるかもしれません。この強力なイベントスキーマは、あなたの行動パターンや、電話やテキストメッセージが脳に与える快感の刺激によってもたらされます。これはスキーマであるため、携帯電話に手を伸ばすことで自分や他人の命が危険にさらされることがわかっていても、それをやめることは非常に困難です(Neyfakh, 2013) (図7.5)。
エレベーターの例を思い出してください。エレベーターの中に入ってドアを見ないようにするのはほとんど不可能だと感じられます。エレベーターでの行動は、強力なイベントスキーマによって決定されますが、それは携帯電話でも同じです。最近の研究では、さまざまな状況で携帯電話をチェックする習慣(イベントスキーマ)があるせいで、運転中に携帯電話をチェックするのを控えるのが困難になっていることが示唆されています(Bayer & Campbell, 2012)。近年、メール送信と運転が危険な疫病となっているため、心理学者は運転中の「電話スキーマ」を中断させる方法を検討しています。このようなイベントスキーマは、多くの習慣が一度身についてしまうとなかなかやめられない原因となっています。思考を考察する際には、世界を理解する上で、概念やスキーマの力がいかに大きいかを念頭に置いてください。
図7.3 (credit a: modification of work by Maarten Takens; credit b: modification of work by “Shayan (USA)”/Flickr)
図7.4 (credit: “Gideon”/Flickr)
Openstax,”Psychology 7.1 What Is Cognition?” https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/7-1-what-is-cognition