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8.1 記憶のしくみ

08 記憶

貯蔵

情報が符号化されたら、私たちはそれをどうにかして保持しなければなりません。私たちの脳は、符号化された情報を受け取り、それを記憶の貯蔵庫に入れます。貯蔵storageとは、情報の永久的な記録を作成することです。

記憶が貯蔵庫(=長期記憶)に入るためには、3つの異なる段階を経なければなりません。感覚記憶、短期記憶、そして長期記憶です。これらの段階は、Richard Atkinsonリチャード・アトキンソンRichard Shiffrinリチャード・シフリン(1968)が初めて提唱しました。彼らによる人の記憶モデル(二重貯蔵モデル)(図8.4)は、人間は、コンピュータが情報を処理するのと同じように記憶を処理するという信念に基づいています。

フロー図は、4つのボックスとそれをつなぐ矢印で構成されています。最初のボックスには "感覚入力 "と書かれています。矢印は、"感覚的な記憶 "と書かれた2番目のボックスにつながっています。矢印は、"短期記憶(STM)"と書かれた3番目のボックスにつながっています。矢印は "長期記憶(LTM)"と書かれた第4の箱を指し、矢印は第4の箱から第3の箱へと逆方向に向かっています。短期記憶の箱の上には、箱の右上から矢印が出て、曲がって箱の左上に戻っています。この矢印には "リハーサル "と書かれています。感覚記憶」と「短期記憶」の両ボックスには、その下に "伝達されない情報は失われる "というテキストを示す矢印があります。
図8.4 アトキンソン・シフリンの記憶モデル(二重貯蔵モデル)によると、情報は長期記憶に保存されるまでに3つの異なる段階を経る。

AtkinsonとShiffrinのモデルは、唯一の記憶のモデルではありません。BaddeleyバッデリーHitchヒッチ(1974)は、短期記憶にはさまざまな形態があるというワーキングメモリーモデルを提案しました。彼らのモデルでは、短期記憶に記憶を保存することは、コンピュータのさまざまなファイルを開いてそこに情報を追加するようなものです。ワーキングメモリのファイルには、限られた量の情報しか保存されません。短期記憶(またはコンピュータのファイル)のタイプは、受け取った情報のタイプによって異なります。視空間形式の記憶と、話し言葉や書き言葉の記憶があり、それらはそれぞれ視・空間スケッチパッドvisuospatial sketchpadエピソードバッファepisodic buffer(Baddeley, 2000)、そして音声(音韻)ループphonological loopの3つの短期システムに保存されます。彼らは、3つの短期システムとの間の情報の流れを監督・制御するのが記憶の中央制御部central executiveであり、情報を長期記憶に移すのも中央制御部であるとしています。

感覚記憶

Atkinson-Shiffrinアトキンソン・シフリンモデル(二重貯蔵モデル)では、環境からの刺激はまず感覚記憶sensory memoryで処理されます。感覚記憶とは、視覚、聴覚、味覚などの短い感覚事象を記憶するもので、数秒程度の非常に短い記憶です。私たちは常に感覚的な情報にさらされています。しかし、そのすべてを吸収することはできませんし、ほとんどの情報を吸収することもできません。そして、そのほとんどは私たちの生活に影響を与えません。例えば、前回の授業で教授がどんな服を着ていましたか?教授がふさわしい服装をしていれば、何を着ていようとどうでもよいことです。価値のある情報とはみなされない視覚、聴覚、嗅覚、触覚などの感覚的な情報は捨てられてしまいます。価値があると思えば、その情報は短期記憶システムに入ります。

短期記憶

短期記憶short-term memory(STM)は、入力された感覚記憶を処理する一時的な記憶システムです。短期記憶とワーキングメモリという言葉は同じように使われることがありますが、正確には同じではありません。短期記憶は、より正確にはワーキングメモリの構成要素として表現されます。短期記憶は、感覚的な記憶から情報を得て、その記憶をすでに長期記憶にあるものと結びつけることもあります。短期記憶の保存期間は15〜30秒です。ドキュメント、スプレッドシート、ウェブサイトなど、コンピュータの画面上に表示されている情報と考えてください。その後、短期記憶にある情報は、長期記憶に移るか(ハードディスクに保存する)、破棄されるか(文書を削除したり、Webブラウザを閉じたりする)します。

リハーサルrehearsalは、情報を短期記憶から長期記憶へと移動させます。能動的リハーサルactive rehearsalは、情報を短期記憶から長期記憶に移すための方法です。能動的リハーサルでは、記憶したい情報を繰り返します(練習します)。十分に繰り返せば、長期記憶に移すことができるかもしれません。例えば、多くの子供たちがアルファベットの歌を歌ってABCを覚えるのは、このような能動的リハーサルによるものです。一方、精緻化リハーサルelaborative rehearsalは、自分が学ぼうとしている新しい情報を、すでに知っている既存の情報と結びつける行為です。例えば、平城京が710年に奈良に建造されたことについて覚えたい場合、「納豆710食うなら奈良平城京」のように、すでに知っている「納豆」という情報や「納豆は食べるもの」であるという情報と結びつけることができます(いわゆる語呂合わせ)。そうすれば、こうしたことを思い出そうとしたときに、比較的簡単に思い出すことができます。

Craik and Lockhart (1972) は、深く考えれば考えたものほど、よく覚えているという処理水準説levels of processing hypothesisを提唱しました。

「私たちの記憶は、一度にどれだけの情報を処理できるのだろう」と疑問に思うことがあるかもしれません。短期記憶の容量と持続時間を調べるために、パートナーに図8.5に示すランダムな数字を読み上げてもらい、何桁までなら覚えられるか確かめてみましょう。

数字の列は2列で、各列に6個の数字があります。 左から順に4桁、5桁、6桁、7桁、8桁、9桁と数字が増えていきます。 1列目には、「9754」「68259」「913825」「5316842」「86951372」「719384273」、2列目には、「6419」「67148」「648327」「5963827」「51739826」「163875942」があります。
図8.5 上で説明した想起練習を使って、この一連の数字を処理し、格納できる最も長い数字の列を決定します。

正解した中で最長の数字列を確認してみてください。ほとんどの人は、7±2に近い容量になると思います。1956年、George Millerジョージ・ミラーは、短期記憶の容量に関するほとんどの研究を検討した結果、人は5〜9個の項目を保持できることを発見し、短期記憶の容量は「マジックナンバー」である7±2であると報告しました。しかし、最近の研究では、ワーキングメモリの容量は4±1とされています(Cowan, 2010)。一般的には、ランダムな文字よりもランダムな数字の方が、多少記憶されやすく(Jacobs, 1887)、また、目で見る情報(視覚的符号化visual encoding)よりも耳で聞く情報(音韻的符号化acoustic encoding)の方が、多少記憶されやすいことが多いようです(Anderson, 1969)。

短期記憶の保持に影響を与える要因として、記憶痕跡memory traceの減衰と干渉があります。PetersonとPeterson(1959)は、トライグラムと呼ばれる3つの文字列(CLSなど)を、3秒から18秒の間の様々な時間間隔をおいて思い出させることで、短期記憶を調べました。参加者は、3秒後には約80%のトライグラムを覚えていましたが、18秒後には10%しか覚えていなかったことから、短期記憶は18秒で減衰すると結論づけられました。減衰期には、記憶痕跡が時間の経過とともに活性化されなくなり、情報が忘れられていきます。しかし、KeppelとUnderwood(1962)は、トライグラム課題の最初の試行のみを調査し、順向干渉も短期記憶の保持に影響を与えることを発見しました。順向干渉proactive interferenceでは、以前に学習した情報が、新しい情報を学習する能力を妨げます。記憶痕跡の減衰も順向干渉も、短期記憶に影響を与えます。長期記憶に到達した情報は、シナプスレベルでは数時間で、記憶システムでは数週間以上かけて統合されなければなりません。

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