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8.1 記憶のしくみ

08 記憶

長期記憶

長期記憶long-term memory(LTM)は、情報を継続的に貯蔵します。短期記憶とは異なり、長期記憶の記憶容量は無限であると考えられています。長期記憶には、数分以上前に起こったことで、思い出すことができるすべての事柄が含まれます。長期記憶を考える上では、その構成を抜きに考えることはできません。早速ですが、「納豆」と聞いて、最初に思い浮かぶ言葉は何でしょうか?ごはんを思い浮かべましたか?もしそうなら、納豆とごはんが頭の中で結びついているはずです。一般的に、記憶は意味semantic連合associativeネットワークnetworkで構成されると言われています(Collins & Loftus, 1975)。意味ネットワークは概念conceptで構成されています。記憶について学んだことがある方はご存知かもしれませんが、概念とは、言語情報、イメージ、アイデア、または人生経験などの記憶のカテゴリーまたは分類のことです。個人の経験や専門知識が概念の配置に影響を与えることはありますが、概念は心の中で階層的に配置されると考えられています(Anderson & Reder, 1999; Johnson & Mervis, 1997, 1998; Palmer, Jones, Hennessy, Unze, & Pick, 1989; Rosch, Mervis, Gray, Johnson, & Boyes-Braem, 1976; Tanaka & Taylor, 1991)。関連する概念はリンクされており、リンクの強さは、2つの概念がどれだけ頻繁に関連付けられているかに依存します。

意味ネットワークは、個人の経験によって異なります。記憶にとって重要なのは、意味ネットワークの一部を活性化するとその部分に関連する概念も多少活性化されるということです。この過程は、活性化拡散spreading activationとして知られています(Collins & Loftus, 1975)。ネットワークの一部分が活性化されると、関連する概念も部分的に活性化されているため、アクセスしやすくなります。何かを思い出したりするときには、ある概念が活性化されます。関連する概念も部分的に活性化されているので、それらもより思い出しやすくなります。活性化は一方向に広がるというわけではありません。何かを思い出すときには、通常、アクセスしようとしている情報を得るためのルートがいくつかあり、概念へのリンクが多いほど、記憶の可能性が高くなります。

長期記憶には、顕在記憶と潜在記憶の2種類があります(図8.6)。顕在記憶と潜在記憶の違いを理解することは重要です。なぜなら、加齢、特定の種類の脳外傷、および特定の障害は、顕在記憶と潜在記憶に異なる影響を与えるからです。顕在記憶explicit memoryとは、私たちが意識的に記憶したり、思い出したり、伝えたりしようとするものです。例えば、化学の試験勉強をしている場合、学習している内容は顕在記憶の一部です。コンピュータの例えで言えば、長期記憶の中の一部の情報は、あなたがハードドライブに保存した情報のようなものでしょう。デスクトップ(短期記憶)には存在しませんが、ほとんどの場合、必要なときにこの情報を引き出すことができます。しかし、すべての長期記憶が強い記憶というわけではなく、中には手がかりを使わないと呼び出せない記憶もあります。例えば、アメリカの首都などの事実は簡単に思い出せても、去年の夏に近くの街を訪れたときに食事をしたレストランの名前はなかなか思い出せないということがあります。しかし、「このレストランの名前はオーナーの名前に由来している」というような手がかりがあれば、そのレストランの名前を思い出すことができるかもしれません。顕在記憶は、言葉で表現できることから宣言的記憶declarative memoryと呼ばれることもあります。顕在記憶はエピソード記憶episodic memory意味記憶semantic memoryに分けられます。

動画で学習

短期記憶と長期記憶について説明した動画で、記憶がどのように保存され、取り出されるかについて詳しく学びましょう。

How does your memory work? | Head Squeeze

エピソード記憶episodic memoryは、私たちが個人的に経験した出来事(=エピソード)に関する情報です。例えば、自分の前回の誕生日の記憶はエピソード記憶です。通常、エピソード記憶はストーリーとして報告されます。エピソード記憶の概念は、1970年代に初めて提唱されました(Tulving, 1972)。それ以来、Tulvingらは理論を再構築し、それ以来、Tulvingらはこの理論を再構築し、現在、科学者たちは、エピソード記憶とは、特定の場所で特定の時間に起こった出来事についての記憶であると考えています(Tulving, 2002)。これは、視覚的なイメージの想起や親近性familiarity(よく知っているという感覚)を伴うものです(Hassabis & Maguire, 2007)。意味記憶semantic memoryは、言葉、概念、言語に基づく知識や事実に関する知識です。意味記憶は通常、事実として報告されます。semantic(意味的)とは、言語や言語に関する知識に関係することを意味します。例えば、「心理学の定義とは何か」、「アフリカ系アメリカ人初の大統領は誰か」といった質問に対する答えは、意味記憶に保存されています。

潜在記憶implicit memoryとは、私たちの意識にはない長期的な記憶のことです。潜在記憶は意識の外で学習され、意識的に思い出すことはできませんが、何らかの課題をこなすことで発揮されます(Roediger, 1990; Schacter, 1987)。潜在記憶は、人工文法の成績(Reber, 1976)、単語の記憶(Jacoby, 1983; Jacoby & Witherspoon, 1982)、暗黙的・非暗黙的な条件や規則の学習(Greenspoon, 1955; Giddan & Eriksen, 1959; Krieckhaus & Eriksen, 1960)などの認知的要求課題で研究されてきました。コンピュータの例えに戻りますが、潜在記憶は、バックグラウンドで動作するプログラムのようなもので、その影響を意識することはありません。潜在記憶は、認知的なタスクだけでなく、観察可能な行動にも影響を与えます。いずれの場合も、その記憶をタスクを適切に表現する言葉に置き換えることはできないのが普通です。潜在記憶には、手続き記憶、プライミング、情動条件付けなどの種類があります。

図は、3列のボックスで構成されています。最上段の箱には「長期記憶」というラベルが貼られており、その箱から出た線は、2列目の2つの箱(「明示的記憶」と「暗黙的記憶」というラベルが貼られている)につながる2本の線に分かれています。2列目の各ボックスからは、線が分かれてさらに別のボックスにつながっています。明示的記憶」のボックスからは、"エピソード(出来事や経験)"と "セマンティック(概念や事実)"と書かれた2つのボックスが出てきます。暗黙的記憶」のボックスからは、「手続き的(物事のやり方)」、「プライミング(刺激への曝露が後の刺激への反応に影響する)」、「感情的条件付け(古典的に条件付けられた感情的反応)」と書かれた3つのボックスが出てきます。
図8.6 長期記憶には、顕在記憶と潜在記憶の2つがある。 顕在記憶には、エピソード記憶と意味記憶があり、潜在記憶には、手続き記憶と条件づけによって学習されたものがある。

手続き記憶procedural memoryは、多くの場合観察可能な行動を用いて研究されます(Adams, 1957; Lacey & Smith, 1954; Lazarus & McCleary, 1951)。手続き記憶とは、何かをするための方法に関する情報を記憶するもので、歯磨き、自転車の乗り方、車の運転など、熟練した行動についての記憶です。自転車の乗り方や車の運転の仕方は、最初はあまり上手くなかったかもしれませんが、しばらくやってみるとだいぶ上手になったはずです。自転車に乗れるようになったのは、バランス感覚を身につけたからです。最初はバランスをとることを「考えて」いたかもしれませんが、今は(考えずとも)ただ「やる」だけになっているはずです。また、バランスをとるのは得意でも、その方法を人に伝えることはできないでしょう。同じように、運転を覚えたばかりの頃は、いろいろなことを考えていたと思いますが、今は何も考えずにやっています。こうした技能を覚えた当初は、誰かがやり方を教えてくれたかもしれませんが、そうした指導以降に覚えたことで、誰かにそのやり方を説明することができないようなものはすべて潜在記憶です。

プライミングprimingも暗黙の記憶の一種です(Schacter, 1992)。プライミングでは、ある刺激にさらされると、それがそれ以降の刺激に対する反応に影響を与えます。刺激はさまざまで、反応を引き出したり、認識を高めたりするために、言葉や絵などの刺激が含まれることがあります。

例えば、ピクニックが大好きな人がいます。自然の中に入って、地面に毛布を敷いて、おいしいものを食べるのが好きなのです。

さて、次の文字を並び替えて、単語を作ってみてください。

$$AETPL$$

あなたはどんな言葉を思いつきましたか?

おそらく “plate(お皿)”ではないでしょうか。

もし、「花を育てるのが好きな人がいます。庭に出て、植物に肥料をやり、花に水をやるのが好きなのです」と例に出していたら、おそらく「plate(お皿)」ではなく「petal(花びら)」という言葉が出てきたでしょう。

先ほどの意味ネットワークの話を思い出してみてください。ピクニックの記事を読んで「お皿」が出てきやすいのは、「お皿」が「ピクニック」と結びついているからです。意味ネットワークを活性化することで、「お皿」がプライミングされたのです。同様に、「花びら」はflower(花)と関連しており、「花」によってプライミングされています。納豆に反応してごはんと言ったのではないかと思われるのもプライミングのためです。

情動条件付けとは、古典的条件づけされた情動反応に関わる記憶のタイプです(Olson & Fazio, 2001)。こうした感情的な関係は、報告したり思い出したりすることはできませんが、異なる刺激と関連付けることができます。例えば、特定の匂いは、人によっては特定の情動反応を引き起こします。ポジティブでノスタルジックな気分にさせてくれるような匂いがあって、その反応がどこから生じたのかわからない場合、それは潜在記憶による情動反応です。同様に、ほとんどの人は特定の情動反応を引き起こす曲を持っています。そうした曲の効果は、潜在的な情動的記憶である可能性があります(Yang, Xu, Du, Shi, & Fang, 2011)。

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