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8.2 記憶をつかさどる脳の部位

08 記憶

小脳と前頭前野

海馬はどちらかというと顕在記憶を処理する領域のようですが、海馬を失っても、小脳のおかげで潜在記憶(手続き記憶、運動学習、古典的条件づけ)は作ることができます(図8.8)。

例えば、古典的条件づけの実験の1つに、目に空気を一吹きするとまばたきをするようにしつけるというものがあります。研究者がウサギの小脳を損傷させたところ、条件づけによるまばたきの反応を学習できないことがわかりました(Steinmetz, 1999; Green & Woodruff-Pak, 2000)。

また、陽電子放出断層撮影positron emission tomography(PET)などの脳スキャンを用いて、人がどのように情報を処理し、保持しているのかを調べた研究者らもいます。これらの研究から、前頭前野が関与していることがわかりました。ある研究では、被験者に2つの異なる課題を課しました。すなわち、単語の中から「a」の文字を探す課題(知覚課題)と、名詞を「生きているもの」と「生きていないもの」に分類する課題(意味課題)です(Kapur et al., 1994)。その後、参加者は以前に見たことのある単語を尋ねられました。すると、知覚課題よりも意味課題の方が、より想起されることがわかりました。また、PETスキャンによると、意味課題では、左下前頭前野の活性化が多く見られました。別の研究では、符号化は左前頭葉の活動と関連し、情報の想起は右前頭葉の領域と関連していました(Craik et al., 1999)。

神経伝達物質

記憶の過程には、エピネフリン、ドーパミン、セロトニン、グルタミン酸、アセチルコリンなどの特定の神経伝達物質も関与しているようです(Myhrer, 2003)。どの神経伝達物質がどのような役割を果たしているかについては、研究者の間で議論や論争が続いています(Blockland, 1996)。それぞれの神経伝達物質が記憶においてどのような役割を果たしているのかはまだわかっていませんが、神経伝達物質を介したニューロン間のコミュニケーションが新しい記憶の形成に重要であることはわかっています。神経細胞が繰り返し活動することで、シナプス内の神経伝達物質が増加し、より効率的に、より多くのシナプス結合が行われます。このようにして、記憶固定化が行われるのです。

また、強い感情は強い記憶を形成し、弱い感情の体験は弱い記憶を形成すると考えられており、これを覚醒理論arousal theoryといいます(Christianson, 1992)。例えば、強い感情を伴う経験は、記憶を強化する神経伝達物質やホルモンの放出を引き起こすことがあります。したがって、感情的な出来事の記憶は、感情的でない出来事の記憶よりも良いことが多いのです。人間や動物がストレスを受けると、脳内で神経伝達物質のグルタミン酸が多く分泌され、ストレスを受けた出来事を記憶するのに役立ちます(McGaugh, 2003)。これは、フラッシュバルブ記憶現象と呼ばれるものではっきりと証明されています。

フラッシュバルブ記憶flashbulb memoryとは、例外的にはっきりと思い出すことのできる、重要な出来事についての記憶です(図8.9)。歴史的に重要な出来事を経験した人の多くは、自分がどこにいて、どのようにその出来事を知ったかを正確に思い出すことができます。例えば、Pew Research Center (2011) の調査によると、9.11 アメリカ同時多発テロ事件の発生時に 8 歳以上だったアメリカ人の 97% が、事件発生から 10 年経った今でも、この出来事を知った瞬間を思い出すことができるそうです。

写真は、2001年9月11日の朝、2機の飛行機が突入した直後の世界貿易センタービル。 両ビルからは黒くて厚い煙が立ち上っている。
図8.9 ほとんどの人は、9月11日のテロについて最初に聞いたとき、自分がどこにいたかを覚えています。これはフラッシュバルブ記憶の一例であり、非常に強い感情的な連想を伴う非典型的な異常な出来事の記録である。

不正確な記憶・誤った記憶

重要な出来事に対するフラッシュバルブ記憶であっても、時間の経過とともに精度が低下することがあります。例えば、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、9.11のテロ事件をどのように知ったかという質問に対して、少なくとも3回、不正確な回答をしています。2002年1月、同時多発テロから4ヶ月も経たないうちに、当時現職のブッシュ大統領は、同時多発テロをどのように知ったかと聞かれ、次のように答えました。

私はそこに座っていて、私のチーフ・スタッフは……そうですね、まず、教室に入ったとき、私は飛行機が最初のビルに飛び込むのを見ていました。テレビがついていたのです。私はパイロットのミスだと思っていましたが、こんなひどいミスをする人がいるのかと驚きました。(Greenberg, 2004, p.2)

ブッシュ大統領の発言とは裏腹に、ツインタワー近くの地上にいた人以外は誰も初号機の衝突を見ていません。最初の飛行機が落ちてくるまでは、普通の火曜日の朝だったので、最初の飛行機のビデオ映像は記録されていなかったのです。

記憶はビデオ録画とは異なります。人間の記憶は、たとえフラッシュバルブ記憶であっても(フラッシュバルブは、写真撮影用の閃光電球という意味がある)、もろいものなのです。

時間、視覚的要素、匂いなど、さまざまな部分が異なる場所に保存されています。何かを思い出すときには、これらの構成要素を元に戻して完全な記憶にしなければなりません。これを記憶の再構成memory reconstructionといいます。それぞれの構成要素には、誤りが生じる可能性があります。虚偽記憶false memory(過誤記憶)とは、起こってもいないことを覚えていることです。ある研究での参加者は、ある言葉を聞いたことがないにもかかわらず、その言葉を聞いたと思い出したことがあります(Roediger & McDermott, 2000)。

歴史的な、あるいは悲劇的な出来事について聞いたとき、あなたはどこにいたか覚えていますか?誰と一緒にいて、何をしていましたか?何を話していましたか?一緒にいた人たちと連絡を取ることはできますか?彼らはあなたと同じ記憶を持っているのでしょうか、それとも違う記憶を持っているのでしょうか?

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