学習目標
- 発達の3つの領域(身体的、認知的、心理社会的)を定義し、区別する。
- 発達に対する規範的なアプローチを議論する
- 発達における3つの主要な問題を理解する:連続性と不連続性、1つの共通した発達過程と多くの独自の発達過程、生まれか育ちか
My heart leaps up when I behold
A rainbow in the sky:
So was it when my life began;
So is it now I am a man;
So be it when I shall grow old,
Or let me die!
The Child is father of the Man;
I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety. (Wordsworth, 1802)
わが心臓が躍り上がる、空に
懸る虻をあおぎ見るとき。
そうであった、わが生涯の始まった時もまた。
そうである、われは大人である今もまた。
そうであろう、われは老いゆく時もまた。
さもなくば、われを死なしめよ!
幼な子は大人の父である。
して、わが口々をしておたがいに自然の敬度の
務めによりて強く縛られたいと願うのだが…。
日本語訳は奥田喜八郎、「ウィリアム・ワーズワース作「虹」の再考察」より
William Wordsworthはこの詩の中で、”the child is father of the man “(幼な子は大人の父である)と書いています。この一見違和感のある言葉は何を意味しているのでしょうか。また、生涯発達とどのような関係があるのでしょうか。ワーズワースは、大人になってからの自分は、子供時代の経験に大きく依存していると示唆しているのかもしれません。次のような問いを考えてみましょう。
現在大人であるあなたは、かつての子供だった頃のあなたからどの程度影響を受けているのか?子供と大人になったその人は根本的にどの程度違うのか?
発達心理学者は、このような疑問に答えようと、受胎から幼少期、青年期、成人期、そして死に至るまでの人間の変化と成長を研究しています。発達とは、生涯にわたる過程であり、身体的発達、認知的発達、心理社会的発達の3つの発達領域に分けて科学的に研究することができると考えています。身体的発達には、身体と脳の成長と変化、感覚、運動能力、健康と福祉が含まれます。認知的発達には、学習、注意、記憶、言語、思考、推論、創造性などが含まれます。心理社会的発達には、感情、性格、社会的関係が含まれます。本章では、これらの領域について扱います。
発達心理学の研究方法
ここまで、心理学者が用いるさまざまな研究方法について学んできました。発達心理学者は、個人が時間の経過とともに精神的・身体的にどのように変化していくのかをよりよく理解するために、これらの手法の多くを使用します。その手法は、自然観察、事例研究、調査、実験など多岐にわたります。
自然観察とは、自然な状況での行動を観察することです。発達心理学の研究者は、公園や保育園、自宅などでの子どもの行動を観察します。この方法では、自然な環境での子どもの行動を垣間見ることができますが、行動の種類や頻度をコントロールすることはほとんどできません。
事例研究では、発達心理学者が一人の個人から多くの情報を収集し、生涯にわたる身体的・心理的変化をより深く理解することを目的としています。この手法は、何らかの点で例外的であるような個人をよりよく理解するための優れた方法ですが、解釈において研究者のバイアスがかかりやすく、より大きな集団に結論を一般化することは困難です。
この研究方法を生涯発達の研究に適用した典型的な例として、Jigmund Freudは「ハンス少年」と呼ばれる子供の発達を分析しました(Freud, 1909/1949)。Freudの研究結果は、後述する子どもの心理的発達に関する彼の理論に役立ちました。
第7章で取り上げた事例研究の対象となったGenieちゃんは、心理学者が一人の個人を対象とした詳細な研究を通じて発達の段階を調べる方法のもう一つの例を示しています。Genieちゃんの場合、育児放棄や虐待を受けて育ったため、13歳でそのような環境から解放されるまで、言葉を話すことができませんでした。彼女が言葉を使うようになると、心理学者は、乳児期から幼児期にかけての典型的な言語習得能力と、発達の後期に発生する言語習得能力の違いを比較することができました(Fromkin, Krashen, Curtiss, Rigler, & Rigler, 1974; Curtiss, 1981)。
調査は、個人の思考、経験、信念などの重要な情報を自己申告してもらうものです。しかし、この方法で収集されたデータの有効性は、正直な自己報告に依存しており、事例研究で収集された情報の深さと比較すると、比較的浅いものとなります。包括的な調査の例として、Ruth W. Howardの研究があります。1934年、彼女は229組の三つ子を調査して博士号を取得しましたが、これは当時、三つ子の研究としては最も包括的なものでした。この先駆的な女性は、心理学で博士号を取得した最初のアフリカ系アメリカ人女性でもあります(American Psychological Association, 2019)。
実験では、剰余変数の大幅な制御と独立変数の操作が必要です。そのため、実験的研究により、発達心理学者は発達過程に重要な特定の変数について因果関係を明らかにすることができます。実験的研究は制御された環境で行われなければならないため、研究者は実験室で観察された行動が個人の自然環境に当てはまるかどうかについては慎重にならなければなりません。
この章の後半では、幼児が場面や行動を観察することで、特定の認知能力が何歳で発達するかを調べる実験をいくつか紹介します。例えば、背の低い太いグラスから背の高い痩せたグラスに液体を注ぐ量を観察します。実験者が子どもたちに質問すると、子どもたちの答えから、容器の形が違っても液体の量は変わらないことを理解できるようになるのは何歳からかがわかります。