1.2 科学の本質

01 天文学への誘い

科学における究極の判断基準は、常に観察、実験、モデル、テストに基づいて自然が明らかにするものです。科学は単なる知識の集合体ではなく、自然とその振る舞いを理解しようとする”方法”です。この方法は、一定期間にわたって多くの観察を行うことから始まります。観察によって得られた傾向から、科学者は理解したい特定の現象をモデル化します。このモデルは常に自然の近似であって、さらに検証されるべきものです。

具体的な例として、古代の天文学者は、地球が宇宙の中心であり、すべてのものが地球の周りを回っているというモデルを、観測と哲学的な信念に基づいて構築しました。当初、私たちが観測した太陽、月、惑星はこのモデルに合致していましたが、さらに観測を重ねると、地球を中心とした惑星の動きを表現するために、円(周転円)を次々と追加してモデルを更新しなければなりませんでした。何世紀もの時を経て、天空の物体を追跡するための改良された機器が開発されると、(膨大な数の円を使っても)従来のモデルでは観測された事実をすべて説明できなくなりました。第2章で説明するように、太陽を中心とした新しいモデルの方が実験結果によく合致していたのです。哲学的な論争を経て、このモデルが私たちの宇宙観として受け入れられました。

新しいモデルやアイデアが提案されたとき、それを仮説と呼ぶことがあります。天文学のような科学では、新しい仮説などありえない、重要なことはすでにわかっていると思われるかもしれません。しかし、実際はそうではありません。この教科書では、天文学における最近の、そして時には、いまだに論争の的となっている仮説についての説明がなされています。例えば、地球に衝突した巨大な岩や氷の塊が、地球上の生命にとってどのような意味を持つのかは、今でも議論されています。また、目に見えない膨大な量の「暗黒エネルギーdark energy」が宇宙の大部分を占めているという強力な証拠がある一方で、暗黒エネルギーが実際に何であるかについて、科学者たちは説得力のある説明を持っていません。これらの問題を解決するには、最先端の技術を駆使した難しい観測が必要であり、また、これらの仮説を標準的な天文モデルに完全に組み込むには、さらなる検証が必要です。

そして、科学においては、次の点が非常に重要です。すなわち、仮説は、検証可能な説明でなければならないという点です。仮説を検証するには、科学の世界では実験が最もわかりやすい方法です。実験が適切に行われれば、その結果は、仮説の予測と一致するか、矛盾するかのどちらかになります。実験結果が本当に仮説と矛盾していれば、科学者はその仮説を捨てて、別の方法を考えなければなりません。実験結果が予測と一致していても、その仮説が絶対に正しいとは限りません。しかし、仮説と一致する実験が多ければ多いほど、その仮説が自然を説明するのに役立つものとして受け入れられる可能性が高くなります。

例えば、黒い羊しかいない島に生まれて住んでいる科学者がいたとします。その科学者は、毎日のように黒い羊だけに出会うので、すべての羊は黒いという仮説を立てます。観察された羊の数が増えるほど仮説は確信に変わりますが、科学者は本土に行って1匹の白い羊を観察するだけで、仮説の間違いを証明することができます。

実験というと、科学者が実験室で実験をしたり、慎重に測定したりしている姿を思い浮かべるでしょう。生物学者や化学者はそれが可能ですが、天文学者のように、実験室が宇宙だったらどうすればいいのでしょうか?星の集団を試験管に入れたり、彗星を科学用品会社に注文したりすることは不可能なのです。

そのため、天文学は観察科学observational scienceと呼ばれ、多くの場合、研究したい天体のサンプルをたくさん観測して、その違いを注意深く観察することで実験を行います。また、新しい観測装置や技術によって、天体を新しい視点から、より詳細に観察することができます。このようにして得られた新しい情報をもとにして、実験の結果を評価するのと同じように、私たちの仮説の合否を判断します。

天文学の多くは歴史科学historical scienceでもあります。つまり、私たちが見ているものはすでに宇宙で起こったことであり、それを変えることはできません。地質学者が地球に起こったことを変えることはできませんし、古生物学者が古代の動物を生き返らせることはできません。それと同じです。これは天文学の難しさでもありますが、同時に宇宙の過去の秘密を発見するという魅力的な機会も提供してくれます。

例えるなら、天文学者は、刑事が現場に到着する前に起きた事件を解決しようとしている探偵のようなものです。証拠はたくさんありますが、探偵も科学者も、実際に起こったことについて様々な仮説を検証するために、証拠を整理しなければなりません。また、科学者が探偵に似ている点はもう一つあり、どちらも自分の事件を証明しなければなりません。探偵は、自分の仮説が正しいことを地方検事や裁判官、そして最終的には陪審員に納得させなければなりません。同じように、科学者は自分の仮説が暫定的に正しいことを、同僚や科学雑誌の編集者、そして最終的には他の科学者の幅広い層に納得させなければなりません。どちらの場合も、「合理的な疑いを超える」証拠を求めることしかできません。そして、時には新しい証拠によって、探偵も科学者も前回の仮説を修正しなければならないこともあります。

こうした自己修正の側面は、科学が多くの人間活動と異なる点です。科学者たちは、お互いに多くの時間をかけて疑問を投げかけます。そのため、プロジェクトの資金申請や学術雑誌に掲載される報告書は、同じ分野の他の科学者による慎重な審査であるピアレビューpeer reviewを受けることになります。科学の世界では、正式な教育や訓練を受けた後は、誰もが実験を改善し、あらゆる仮説に挑戦することが奨励されます。新人科学者は、現在の理解の弱点を見つけ、新しい仮説や修正した仮説を立てて修正することが、キャリアアップのための最良の方法の1つであることを知っています。

これが、科学が飛躍的に進歩した理由の一つです。現在、科学を専攻している学部生は、科学と数学について、史上最も有名な科学者の一人であるアイザック・ニュートンよりも詳しい知識を持っています。この天文学の入門コースでも、数世代前には誰も夢にも思わなかったような天体やプロセスについて学ぶことができます。

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