3.2 炭水化物

03 生体の高分子

学習目標

このセクションを終える頃には、以下のことができるようになっています。

  • 動物や植物の細胞や細胞外物質における糖質の役割を説明する
  • 炭水化物の分類を説明する
  • 一般的な単糖類、二糖類、多糖類を列挙できる


高分子の一種である糖質は、多くの人にとって身近な存在であり、特に食生活においては重要な存在です。ダイエットのために「低炭水化物」の食事をする人がいる一方で、スポーツ選手は、重要な試合の前には、高いレベルの試合をするために十分なエネルギーを確保するために炭水化物を摂取します。炭水化物は、私たちの食生活に欠かせないものです。穀物、果物、野菜などの天然の炭水化物は、主食に含まれるデンプンを構成する単糖であるグルコースを中心に、体にエネルギーを供給します。また、炭水化物は人間や動物、植物にとって他にも重要な働きをしています。

分子構造

炭水化物carbohydrateは、(CH2O)n(nは炭素数)という式で表されます。つまり、炭素と水素と酸素の割合が1:2:1の糖質分子のことです。この式は、「炭水化物carbohydrate」という言葉の由来も説明しています。炭素(carbo)と水の成分(hydrate)でできているということです。科学者たちは、炭水化物を単糖類、二糖類、多糖類の3つのタイプに分類しています。

単糖類

単糖類monosaccharide(mono-は「1」、sacchar-は「甘い」の意)は単純な糖で、最も一般的なものはグルコースです。単糖類の炭素数は通常3~7になっています。ほとんどの単糖類の名称は、”-ose”という接尾辞で終わります。糖がアルデヒド基(構造がR-CHOの官能基)を持っていればアルドースaldose、ケトン基(構造がRC(=O)R’の官能基)を持っていればケトースketoseです。糖の炭素数に応じて、トリオースtriose(三炭糖)、ペントースpentose(五炭糖)、ヘキソースhexose(六炭糖)となります。図3.4は、単糖類を示しています。

図3.4 科学者は、カルボニル基の位置と骨格の炭素数に基づいて単糖類を分類している。アルドースは炭素鎖の末端にカルボニル基(緑色で表示)があり、ケトースは炭素鎖の中間にカルボニル基がある。トリオース、ペントース、ヘキソースは、それぞれ炭素数3、5、6の骨格を持つ。

グルコースの化学式はC6H12O6です。ブドウ糖は人間にとって重要なエネルギー源です。細胞呼吸の際には、ブドウ糖からエネルギーが放出され、そのエネルギーがアデノシン三リン酸(ATP)を作るのに役立ちます。植物は、二酸化炭素と水を使ってグルコースを合成し、グルコースは植物に必要なエネルギーを供給します。植物を食べる人間や他の動物は、異化(細胞が大きな分子を分解してエネルギーを取り出すこと)されたデンプンからグルコースを得ることが多くあります。

ガラクトース(乳糖の一部)やフルクトース(果物のショ糖に含まれる)も一般的な単糖類です。グルコース、ガラクトース、フルクトースはすべて同じ化学式(C6H12O6)を持ちますが、炭素の周りの非対称な官能基の配置が異なるため、構造的にも化学的にも異なるものです(異性体)。これらの単糖類はすべて、2つ以上の不斉炭素を持っています(図3.5)。

図3.5 グルコース、ガラクトース、フルクトースは、いずれもヘキソース(六炭糖)である。
これらは構造異性体で、化学式(C6H12O6)は同じだが、原子の配列が異なる。

グルコース、ガラクトース、フルクトースは、化学式は同じだが構造が微妙に異なる異性体の単糖類(のうちのヘキソース)です。グルコースとガラクトースはアルデヒド基を持つアルドースであり、フルクトースはケトン基を持つケトースです。

単糖類には、直鎖状のものと環状のものがあります。水溶液中では、通常、環状になっています(図3.6)。環状のグルコースは、アノマー炭素(環形成の過程で不斉炭素になる1位炭素原子)の周りに2つの異なるヒドロキシ基の配置(OH)を持つことができます。ヒドロキシ基が糖の炭素数1より下にある場合はα(アルファ)、上にある場合はβ(ベータ)になります。

図3.6 炭素数5および6の単糖類は、直鎖状と環状の間で平衡状態にある。環が形成されると、その側鎖はαまたはβの位置に固定される。フルクトースとリボースも環を形成するが、グルコースの6員環とは対照的に5員環を形成する。

二糖類

二糖類disaccharide(di- は「2」の意)は、2つの単糖類が脱水縮合を起こすことによって形成されます。この過程で、一方の単糖のヒドロキシ基が他方の単糖の水素と結合し、水分子を放出して共有結合を形成します。共有結合は、炭水化物の分子と他の分子の間(この場合は2つの単糖の間)に形成されます。科学者たちは、これをグリコシド結合glycosidic bondと呼んでいます(図3.7)。グリコシド結合には、α型とβ型があります。α結合は、最初のグルコースの1位のOH基(図の赤いOH)が環面の下にある場合に形成され、β結合は、1位のOH基が環面の上にある場合に形成されます。

図3.7 スクロースは、グルコースモノマーとフルクトースモノマーが脱水縮合によってグリコシド結合を形成してできる。その際、水分子が1つ失われる。慣習的に、単糖の炭素原子はカルボニル基に近い末端の炭素から番号付けされる。スクロースでは、グルコースの炭素1とフルクトースの炭素2の間にグリコシド結合が形成される。

二糖類の代表的なものには、乳糖、麦芽糖、ショ糖などがあります(図3.8)。乳糖は、グルコースとガラクトースの単量体からなる二糖類で、牛乳に含まれています。麦芽糖は、2つのグルコース分子の脱水縮合によって形成される二糖類です。最も一般的な二糖類はショ糖(テーブルシュガー)で、グルコースとフルクトースのモノマーで構成されています。

図3.8 一般的な二糖類には、マルトース(穀物糖)、ラクトース(乳糖)、スクロース(食卓糖)などがあります。

多糖類

グリコシド結合で結ばれた単糖類の長い鎖が多糖類polysaccharideです(poly-=「多数の」)。鎖は分岐していても、していなくてもよく、異なる種類の単糖を含んでいることもあります。分子量は、結合しているモノマーの数によって10万ダルトン以上になることもあります。多糖類の主な例としては、デンプン、グリコーゲン、セルロース、キチンなどがあります。

植物はデンプンの形で糖分を蓄えています。植物では、アミロースとアミロペクチンの混合物(どちらもグルコースポリマー)がこれらの糖を構成しています。植物はグルコースを合成することができ、すぐに必要なエネルギーを超えた分の余ったグルコースをデンプンとして、根や種子などのさまざまな植物の部位に蓄えます。種子に含まれるデンプンは、発芽する際の胚の肥料となり、人間や動物の食料源としても機能します。人間が口にするデンプンは、酵素によって分解されます。例えば、唾液に含まれるアミラーゼが触媒となって、このデンプンをマルトースやグルコースなどの小さな分子に分解します。そして、細胞はグルコースを吸収することができます。

デンプンは、α1-4またはα1-6グリコシド結合で結合したモノマーからなります。1-4および1-6という数字は、結合している2つの残基の炭素数を示している。図3.9に示すように、分岐していないグルコースモノマー鎖(α1-4結合のみ)がアミロースを形成しているのに対し、アミロペクチンは分岐した多糖類(分岐点でα1-6結合)です。

図3.9 アミロースとアミロペクチンは2つの異なる形態のデンプンである。分岐していないグルコースモノマー鎖は、α1-4グリコシド結合でアミロースを構成する。分岐したグルコースモノマー鎖は、α1-4およびα1-6のグリコシド結合によってアミロペクチンを構成する。サブユニットの結合の仕方により、グルコース鎖はらせん状の構造をしている。グリコーゲン(図示せず)は、アミロペクチンと構造が似ているが、より高度に分岐している。

グリコーゲンglycogenは、ヒトをはじめとする脊椎動物が持つグルコースの貯蔵形態で、グルコースのモノマーから構成されています。グリコーゲンは動物のデンプンに相当するもので、通常は肝臓や筋肉の細胞に蓄えられている、高度に分岐した分子です。血糖値が下がると、グリコーゲンが分解されてグルコースが放出されますが、これを「グリコーゲン分解」と呼びます。

セルロースcelluloseは、最も豊富な天然の生体高分子です。セルロースは植物の細胞壁を構成しており、細胞を構造的に支えています。木材や紙はほとんどがセルロース系です。セルロースはグルコースモノマーで構成されており、β1〜4のグリコシド結合で結ばれています(図3.10)。

図3.10 セルロースは、グルコース分子が数百から数千個結合した直鎖からなる有機化合物である。グルコースのモノマーが水素結合を形成し、鎖を横に並べてしっかりと固定し、強いミクロフィブリルを形成している。この硬さは、植物の細胞壁の重要な要素である。(credit:Ryan, K. Rao, A. and Hawkins, A. Department of Biology, Texas A&M University.を改変)

図3.10に示すように、セルロースに含まれるグルコースモノマーは、隣り合うグルコースモノマーが反対になっており、モノマーは伸びた長鎖としてしっかりと詰まっています。これにより、植物細胞にとって重要なセルロースの剛性と高い抗張力(引っ張りに対する強度)が得られているのです。人間の消化酵素はβ1-4結合を分解できませんが、牛やコアラ、バッファローなどの草食動物は、胃の中の特殊な細菌そうの助けを借りて、セルロースを多く含む植物を消化し、食料源とすることができます。これらの動物の中には、こぶ胃(ルーメン、草食動物の消化器官の一部)に生息し、セルラーゼという酵素を分泌するバクテリアや原生生物の種類があります。放牧されている動物の盲腸にもセルロースを消化するバクテリアがいて、反芻動物の消化器系で重要な役割を果たしています。セルラーゼはセルロースを分解して、動物がエネルギー源とするグルコースモノマーにすることができます。シロアリもセルロースを分解できますが、それは体内にセルラーゼを分泌する他の生物がいるからです。

炭水化物は、動物によって様々な役割を果たしています。節足動物(昆虫、甲殻類など)は、図3.11のハチのように、体の内部を保護するための外骨格を持っています。この外骨格は、窒素を含む多糖類である生体高分子のキチンchitinでできています。キチンは、N-アセチル-D-グルコサミンの繰り返しでできており、これは修飾された糖です。キチンは真菌類の細胞壁の主要な構成要素でもあります。菌類は動物でも植物でもなく、真核生物の領域で一つの界を形成しています。

A photograph shows a bee in flight, getting nectar from a flower.
図3.11 昆虫は、多糖類の一種であるキチンでできた硬い外骨格を持っている。
(クレジット:Louise Docker)

キャリアとのつながり:管理栄養士

肥満は世界的な健康問題であり、肥満が原因で糖尿病や心臓病など多くの病気が蔓延しています。そのため、管理栄養士にアドバイスを求める人が増えています。管理栄養士は、さまざまな場面で個人のための栄養プログラムを作成します。医療施設で患者と一緒に働き、病気の治療や予防のための栄養計画を立てることも多くあります。例えば、糖尿病の患者に、適切な種類と量の炭水化物を食べることで血糖値を管理する方法を教えたりします。

登録栄養士になるには、高校を卒業後、管理栄養士養成課程あるいは栄養士養成課程のある大学、短大、専門学校を卒業することが必要です。また、管理栄養士になるには、管理栄養士国家試験に合格しなければなりません。栄養学を専攻する人は、栄養学、化学、生化学、生物学、微生物学、人間生理学などの講義を受けます。栄養士は、食品(タンパク質、炭水化物、脂肪)の化学と生理学(生物学的機能)の専門家にならなければならないのです。

炭水化物のメリット

炭水化物は体に良いのでしょうか?炭水化物は悪いものであり、避けるべきだと考える人もいます。炭水化物の摂取を完全に禁止するダイエット法もあり、低炭水化物(ロカボ)ダイエットは体重を早く減らすのに有効だと主張しています。しかし、炭水化物は何千年もの間、人間の食生活において重要な役割を果たしてきました。古代文明の遺物を見ると、私たちの祖先が保管していた場所には小麦、米、トウモロコシがあったことがわかります。

バランスのとれた食生活を送るためには、炭水化物に加えて、タンパク質、ビタミン、脂質を補う必要があります。カロリー的には、炭水化物1gは4.3kcalです。一方、脂質は9kcal/gです。炭水化物には水溶性と不溶性の成分があります。不溶性の部分である食物繊維は、そのほとんどがセルロースです。食物繊維には様々な働きがあります。かさを増すことで規則的な便通を促し、血糖値の消費率を調整します。また、食物繊維には、体内の余分なコレステロールを取り除く働きもあります。食物繊維は小腸でコレステロールにくっついて、コレステロール粒子が血流に入るのを防ぐのです。コレステロールはその後、便を通して体外に排出されます。食物繊維が豊富な食事は、大腸がんの発生を抑える保護的な役割も担っています。さらに、全粒穀物と野菜を含む食事は、満腹感をもたらします。即効性のあるエネルギー源であるグルコースは、細胞呼吸の過程で分解され、細胞のエネルギー通貨であるATPを生成します。炭水化物を摂取しないと、「すぐに使えるエネルギー」の利用可能性が低くなります。食事から炭水化物を排除することが必要な人もいるかもしれませんが、それがすべての人にとって健康的であるとは限りません。

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